契約が終わっても雇用は続く。就業規則から見る人材派遣の会社設立の資金計画
資金計画への影響を知りたい方へ
人材派遣の会社設立を考えていて、就業規則の内容が資金計画にどう効いてくるかを知りたい方に向けた記事です。
労働者派遣事業の許可基準は、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないことを求めています。つまり、派遣先との契約が終わっても雇用は続くということです。
この仕組みは、そのまま資金計画に効いてきます。稼働がゼロでも人件費が止まらないからです。
契約終了だけを理由に解雇できません

労働者派遣事業の許可基準には、解雇に関する定めがあります。
厚生労働省の許可基準は、派遣元事業主に関する判断として次のように書いています。無期雇用派遣労働者を労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないこと。また、有期雇用派遣労働者についても、労働者派遣契約終了時に労働契約が存続している派遣労働者については、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないこと。
つまり、派遣先との契約が終わったからといって、それだけを理由に派遣スタッフを解雇することはできない、ということです。
そして、この内容を就業規則または労働契約に規定しておく必要があります。許可申請では、その該当箇所の写しを提出します。
ここで押さえておきたいのは、これが単なる書類の話ではないということです。実際の運営がそうなるということです。
人材派遣の会社設立で資金計画を立てるとき、この点を前提にしてください。派遣先との契約が終わっても、人件費は続きます。
一般的な会社設立であれば、受注が減れば人を減らすという判断があり得ます。人材派遣ではそれができません。派遣先との契約が終わることは、事業の性質として最初から想定されているからです。
会社設立の段階でこの点を理解しておくと、資金計画の立て方が変わります。売上が減った月に費用も減る、という前提では組めないということです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
では、次の派遣先が見つからないときは

派遣先との契約が終わり、次の派遣先が見つからない場合はどうなるのか。
厚生労働省の許可基準は、次のように定めています。無期雇用派遣労働者又は有期雇用派遣労働者であるが労働契約期間内に労働者派遣契約が終了した派遣労働者について、次の派遣先を見つけられない等、使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合には、労働基準法第26条に基づく手当を支払う旨の規定があること。
労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中の労働者に平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない、と定めています。
つまり、次の派遣先が見つからず休業させる場合には、手当を支払うことになります。
この手当は、稼働していない期間に発生します。売上がないのに支出があるということです。
人材派遣の会社設立で資金計画を立てるとき、この点を見込んでおいてください。すべての派遣スタッフが常に稼働しているという前提では、計画が甘くなります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
資金繰りへの影響

この仕組みが、人材派遣の資金繰りにどう効いてくるかを整理します。
まず、通常の資金の流れです。派遣スタッフへの給与が先で、派遣先からの入金が後という順番になります。月末で締めて給与を支払い、派遣先に請求して、翌月末または翌々月末に入金されます。
ここに、稼働していない期間の人件費が加わります。派遣先との契約が終わり、次が決まるまでのあいだの休業手当です。

この図で見ていただきたいのは、右側です。稼働していなくても、休業手当と社会保険料の事業主負担が発生します。そして入金はありません。
人材派遣の会社設立で運転資金を見積もるとき、この状態が起こり得ることを前提にしてください。
そして、教育訓練の義務も続きます。フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり、少なくとも最初の3年間は毎年概ね8時間以上の機会の提供が必要とされています。休業中であっても、この義務がなくなるわけではありません。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、稼働していない期間にも一定の費用が続くことを前提にしてください。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
基準資産額2,000万円の背景

ここまでの内容を踏まえると、労働者派遣事業の許可の資産要件の意味が見えてきます。
事業所1か所であれば、基準資産額2,000万円以上・自己名義の現金預金1,500万円以上・基準資産額が負債の総額の7分の1以上という三つを同時に満たす必要があります。
なぜこの水準なのか。厚生労働省が理由を明示した資料は見当たりませんが、許可基準の他の内容から読み取れる趣旨があります。
派遣先との契約が終わっても雇用は続き、休業させる場合には手当を支払う。この仕組みを支える体力があるかどうかを確かめる基準だと考えられます。
人材派遣の会社設立で「資産要件が重い」と感じるかもしれません。ただ、この仕組みを考えれば、一定の水準が求められることは理解できます。
そして、この資産要件は許可の更新のたびに確かめられます。会社設立のときに一度満たせばよいものではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
雇用安定措置という仕組みもあります

解雇の制限とあわせて、雇用安定措置という仕組みもあります。
労働者派遣法には、同一の組織単位に継続して一定期間派遣される見込みがある派遣労働者について、派遣元事業主が講ずべき措置が定められています。
そして、厚生労働省の業務取扱要領は、許可の更新の判断についてこう書いています。雇用安定措置について、更新申請の直前の有効期間内において、許可基準を満たす実施状況であったかを確認するとともに必要な指導を行い、それでも実施されないような義務違反がみられた場合は、許可を更新しないこととする。
つまり、この措置も許可の維持に関わるということです。
あわせて、許可基準には次の内容もあります。既に事業を行っている者であって、雇用安定措置の義務を免れることを目的とした行為を行っており、労働局から指導され、それを是正していない者ではないこと。
人材派遣の会社設立の段階では先の話に見えますが、事業が続けば必ず関わってきます。会社設立の事業計画を作るとき、この措置があることを頭に入れておいてください。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
稼働率を、収支計画にどう見込むか

この仕組みを踏まえて、収支計画をどう立てるかを考えます。
人材派遣の収入は、派遣スタッフが稼働している時間に対して発生します。稼働していない期間は、収入がありません。
一方、費用は稼働の有無にかかわらず発生する部分があります。休業手当、社会保険料の事業主負担、そして事業所の家賃や役員報酬といった固定費です。
| 項目 | 稼働している場合 | 休業させている場合 |
|---|---|---|
| 派遣料金の入金 | あります(1〜2か月後) | ありません |
| 賃金・休業手当 | 賃金を支払います | 休業手当を支払います |
| 社会保険料の事業主負担 | 発生します | 発生します |
| 事業所の家賃 | 発生します | 発生します |
| 役員報酬 | 発生します | 発生します |
| 教育訓練の費用 | 発生します | 発生します(実施すれば) |
稼働していなくても、費用の多くは発生し続けます。
この表を見ると、稼働していない期間の負担が分かります。収入だけがなくなり、費用は多くが残ります。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、稼働率を100パーセントで見込まないでください。契約の切れ目、次の派遣先が決まるまでの期間を見込んでおく必要があります。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
次の派遣先を見つける、という営業の意味

この仕組みから、人材派遣における営業の意味も見えてきます。
派遣先を開拓する営業は、単に売上を増やすためのものではありません。契約が終わった派遣スタッフの次の就業先を確保するためのものでもあります。
次の派遣先が見つからなければ、休業させることになり、手当が発生します。営業が止まれば、費用が増えるということです。
人材派遣の会社設立で一人に近い体制を考えている場合、この点はとくに重要になります。事務に追われて営業ができなくなれば、稼働率が下がり、休業手当の負担が増えます。
会社設立の段階で、営業に使える時間をどう確保するかを考えておいてください。事務を外に出す、仕組みで補うといった方法があります。
そして、派遣スタッフのキャリア形成という観点もあります。厚生労働省の許可基準は、キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供を行う手続が規定されていることを求めています。
そして、派遣が禁止されている業務もあります。港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院等における医療関係の業務の一部など。空きを埋めるために禁止業務に派遣すれば、罰則の対象になります。
人材派遣の会社設立で事業計画を作るとき、派遣できる業務の範囲を先に確かめておいてください。営業の対象がそこで決まります。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
会社設立の段階で、余裕を持たせる理由

ここまでの内容から、人材派遣の会社設立で資本金に余裕を持たせる理由が見えてきます。
稼働していない期間の休業手当、社会保険料の事業主負担、そして固定費。これらが重なる時期があります。
そのとき、資金に余裕があれば乗り切れます。余裕がなければ、無理な派遣先に送るという判断が出てくるかもしれません。
そして、赤字が続けば基準資産額が目減りします。労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。更新の審査でも、資産要件は確かめられます。
つまり、資金の余裕が、事業の選択肢と許可の維持の両方につながっているということです。
人材派遣の会社設立で資本金を決めるとき、基準資産額2,000万円ちょうどではなく、余裕を持たせることをおすすめします。設立費用の分だけでなく、こうした事態への備えとしてもです。
そして、役員報酬の設計もここに関わります。役員報酬を高く設定すれば法人の利益が減り、基準資産額の積み上がりが遅くなります。会社設立の段階から、この点も含めて設計してください。
人材派遣の会社設立は、許可を取ることがゴールではありません。3年後の更新まで見て、資金の余裕を設計してください。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|就業規則から見える資金計画

就業規則の内容から見える、人材派遣の資金計画についてまとめます。
- 契約終了だけを理由に解雇できない。 許可基準に、その旨の規定がないことが求められています。
- 次の派遣先が見つからず休業させる場合は手当を支払う。 労働基準法第26条に基づく手当です。
- 稼働していなくても社会保険料は発生する。 被保険者資格は続きます。
- 基準資産額2,000万円の背景。 この仕組みを支える体力を確かめる基準だと考えられます。
- 雇用安定措置という仕組みもある。 許可の更新の判断に関わります。
- 稼働率を100パーセントで見込まない。 契約の切れ目を見込んでおいてください。
- 営業が止まれば費用が増える。 次の派遣先を見つけることは、休業を避けることでもあります。
- 会社設立の段階で資本金に余裕を持たせる。 事業の選択肢と許可の維持につながります。
人材派遣は、稼働がゼロでも人件費が止まらない事業です。会社設立の資金計画に、この点を必ず入れてください。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。就業規則の作成は社会保険労務士へ、資金計画は税理士へ、許可の要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
基準資産額2,000万円の背景にある仕組みです
派遣先との契約が終わっても雇用と賃金の支払いが続く。この仕組みがあるからこそ、労働者派遣事業の許可には基準資産額2,000万円という資産要件があるのだと考えられます。
人材派遣の会社設立で資金計画を立てるとき、この点を必ず入れてください。稼働がゼロでも人件費が止まらない事業です。
就業規則の作成は社会保険労務士へ、資金計画は税理士へ、許可の要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行ではありません。
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