自己資金と融資と助成金。人材派遣の会社設立で資金を集める順序
資金の集め方を考えている方へ
人材派遣の会社設立で、必要な資金をどう集めるか考えている方に向けた記事です。
労働者派遣事業の許可には資産要件があります。基準資産額と現金・預金の額の両方が見られ、負債とのバランスも問われます。
そのため、どう集めるかによって、要件を満たせるかどうかが変わります。この記事では、それぞれの性格と順序を整理します。
いくら必要かを、先に出す

資金を集める前に、いくら必要かを出してください。
人材派遣の会社設立では、複数の性格の資金が同時に必要になります。

いちばん上と二番目は、置いておくお金です。厚生労働省の資料は、基準資産額が2,000万円に事業所数を乗じた額以上であること、事業資金として自己名義の現金・預金の額が1,500万円に事業所数を乗じた額以上であることを掲げています。
三番目から下は、実際に出ていくお金です。これらをいちばん上から出せば、要件を割ってしまいます。
つまり、要件を満たす額に加えて、出ていく分を用意する必要があるということです。
人材派遣の会社設立では、この計算を最初にしてください。必要な総額が分かってから、どう集めるかを考えます。
そして、この総額は事業所の数によって変わります。事業所を二つ持てば、基準資産額は4,000万円以上、現金・預金は3,000万円以上が必要になります。
そして、いちばん下の立替資金は、事業が伸びるほど増えます。派遣スタッフが増えれば、先に払う賃金と社会保険料も増えるからです。
人材派遣の会社設立では、開業時の人数だけでなく、一年後の人数も見込んで計算してください。売上が伸びているのに現金が足りないという状態を避けるためです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
自己資金の性格

自己資金は、いちばん素直な資金です。
会社設立のときに資本金として払い込めば、そのまま会社の資産になります。負債は増えません。
したがって、基準資産額がそのまま増えます。基準資産額とは、資産(繰延資産及び営業権を除く)の総額から負債の総額を控除した額だからです。
そして、負債比率の条件にも有利に働きます。労働者派遣事業の資産要件には、基準資産額が負債の総額の7分の1以上であることという条件が含まれます。
負債が増えなければ、この条件は満たしやすくなります。
人材派遣の会社設立で資産要件を満たす方法として、自己資金がいちばん確実です。
ただし、2,000万円を超える自己資金を用意できる方は多くありません。ここが最初の関門になります。
そして、自己資金には返済がありません。毎月の返済が発生しないということは、収支計画が楽になるということです。
すでに会社がある場合は、増資という方法があります。会社法の手続きに従って資本金を増やすことになります。
なお、自己資金として用意したお金は、会社に払い込んだ時点で会社のお金になります。個人の生活費として使うことはできません。
人材派遣の会社設立では、生活費を別に確保しておいてください。許可が下りるまで役員報酬を低く抑えるなら、なおさら必要です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
借入の性格

借入は、自己資金とは性格が違います。
借りたお金は資産として増えますが、同時に負債も増えます。したがって、基準資産額そのものは増えません。
資産が2,000万円増えても、負債も2,000万円増えれば、差し引きはゼロだからです。
そして、負債比率の条件に効いてきます。基準資産額が負債の総額の7分の1以上であることという条件です。
たとえば負債の総額が1億4,000万円あれば、基準資産額は2,000万円以上必要です。負債が2億1,000万円になれば、3,000万円以上が必要になります。
つまり、借りすぎれば要件を満たせなくなるということです。
ただし、借入がまったく役に立たないわけではありません。自己名義の現金・預金の額を確保するという意味では効きます。
そして、事業を回すための運転資金としては有効です。賃金の立替に使えるからです。
日本政策金融公庫には創業を支援する融資制度が用意されています。詳しくは公庫の案内でご確認ください。融資の可否と条件は金融機関が判断します。
そして、借入には審査があります。会社設立の直後は実績がないため、事業計画書の内容が重視されます。
人材派遣の事業計画を説明するには、許可の要件、収支の構造、立替の仕組みを整理しておく必要があります。会社設立の準備のなかで、この整理をしておいてください。
出典創業支援(日本政策金融公庫) (日本政策金融公庫/2026年8月27日確認)
助成金の性格

助成金は、これまでの二つとまったく性格が違います。
雇用関係助成金は、要件を満たす取組を行い、その後に申請し、審査を経て支給されます。
つまり、後払いです。先にお金は入りません。
したがって、会社設立の資金にはなりません。許可申請の時点で資産要件を満たすためのお金にもなりません。
そして、受給できるかどうかは審査によります。要件を満たしていると思っていても、認められないことがあります。
人材派遣の会社設立では、助成金を資金計画の本体に入れないでください。入れれば、その分だけ実際の資金が足りなくなります。
受給できた場合には、原則として収益として扱われます。純資産が増えるため、資産要件の維持には役立ちます。
ただし、それは事業が動き出したあとの話です。順序が違います。
そして、制度は年度ごとに見直されます。厚生労働省の案内でその時点の内容をご確認ください。
そして、申請の実務にも手間がかかります。書類を準備し、期限を守り、窓口とやり取りする。会社設立の直後は、この時間を確保するのも簡単ではありません。
出典事業主の方のための雇用関係助成金 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
三つを並べて比べる

三つの資金を、許可の資産要件への効き方で比べてみます。

この図が示しているのは、要件を満たすという目的では自己資金がいちばん確実だということです。
しかし、自己資金だけで必要な総額を用意できるとは限りません。
そこで、順序を考えます。自己資金で資産要件を満たし、運転資金を借入で補うという組み立てです。
ただし、借入をすれば負債が増え、負債比率の条件に効いてきます。どこまで借りられるかには限度があります。
人材派遣の会社設立では、この関係を計算に入れて借入額を決めてください。
そして、事業所の数を増やせば、要件の金額も増えます。会社設立の段階では事業所を一つにしておくのが、資金の面でも現実的です。
会社設立の準備の段階で、この計算を一度やっておいてください。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
集める順序を決める

資金を集めるには、時間がかかります。順序も大切です。
融資の相談には期間が必要です。事業計画書を作り、面談を受け、審査を経て、実行に至ります。
そして、会社設立の前に相談を始めることもできます。創業前の相談を受け付けている窓口があります。
人材派遣の会社設立では、次のような順序が考えられます。
- 必要な資金の総額を計算する。基準資産額、現金・預金、設立費用、申請費用、事業所の初期費用、許可までの固定費、立替資金。
- 自己資金でどこまで用意できるかを確認する。不足額を出します。
- 融資の相談を始める。事業計画書を準備します。
- 資本金の額を決める。資産要件を満たす水準を確保します。
- 会社設立の登記をする。定款の事業目的に労働者派遣事業を記載します。
- 許可申請の準備を進める。事業所、責任者講習、教育訓練の実施計画。
- 許可を申請する。事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までが目安です。
- 事業が動き出してから、助成金を検討する。
八つ目が最後に来ることに注目してください。助成金は、事業が動き出してからの話です。
そして、三つ目の融資の相談は早めに始めてください。時間がかかるからです。
そして、五つ目から七つ目のあいだにも期間があります。登記が完了してから許可申請の書類を整え、審査を経て許可が下りるまで、数か月を見込むことになります。
人材派遣の会社設立では、この期間の固定費を資金計画に入れてください。売上がない期間だからです。
出典創業支援(日本政策金融公庫) (日本政策金融公庫/2026年8月27日確認)
要件は維持するものです

資金を集めて許可を受けても、そこで終わりではありません。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。
そして、厚生労働省の業務取扱要領は、更新申請の際にも許可の基準を満たすことが必要である旨を示しています。
つまり、資産要件は維持するものだということです。
赤字が続けば、基準資産額は減っていきます。会社設立のときに用意した資本金を、事業で削っていく形になります。
そして、借入があれば返済も進みます。返済すれば負債は減りますが、現金も減ります。
人材派遣の会社設立では、利益が残る価格設計にしておいてください。それが要件を維持する唯一の方法です。
そして、月次で数字を見てください。年に一度の決算だけでは、気づくのが遅くなります。
そして、事業所を増やせば、そのたびに要件の金額も上がります。拠点を増やすときは、資金の裏づけがあるかを確かめてください。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
中間決算・月次決算を使う場合

決算のあとに資金を増やした場合、その数字を使えるのかという論点があります。
厚生労働省の業務取扱要領は、基準資産額または現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあったときについて、公認会計士又は監査法人による監査証明を受けた中間決算又は月次決算による場合に限るとしています。
更新申請については、日本公認会計士協会が平成30年12月20日付けで公表した実務指針に基づく合意された手続業務による中間決算・月次決算でも可能とされています。
つまり、単に自分で作った月次の資料を出せばよいというものではありません。
公認会計士等に依頼すれば、費用も期間もかかります。
人材派遣の会社設立では、この手続きを前提にするより、直近の決算で要件を満たしている状態にしておくほうが確実です。
会社設立の直後であれば、設立時の資本金がそのまま基準資産額に近くなります。この時点で申請するのが、いちばん分かりやすい形です。
会社設立の日程を組むときは、この点も考えてください。設立から間を置かずに申請できるよう準備を進めるほうが、手続きは簡単になります。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|資金を集める順序

人材派遣の会社設立で資金を集める順序について、まとめます。
- いくら必要かを先に出す。 要件を満たす額に、出ていく分を足します。
- 自己資金は基準資産額をそのまま増やす。 負債が増えないため、負債比率にも有利です。
- 借入は資産と負債が同時に増える。 基準資産額は増えず、負債比率の条件に効いてきます。
- 助成金は後払い。 会社設立の資金にも、申請時の資産要件を満たすお金にもなりません。
- 順序を決める。 自己資金で要件を満たし、運転資金を借入で補う組み立てです。
- 融資の相談は早めに。 時間がかかります。会社設立の前から相談できます。
- 要件は維持するもの。 更新のときにも確認されます。
集め方によって、許可の資産要件を満たせるかどうかが変わります。集めればよいというものではありません。
人材派遣の会社設立では、必要な総額を計算し、自己資金と借入の配分を決め、助成金は別枠に置く。この順序で進めてください。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省・日本政策金融公庫の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。融資の可否は金融機関が判断します。許可の要件は所管の都道府県労働局が判断します。税務の判断は税理士へ、社会保険と労務の手続きは社会保険労務士へご相談ください。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
集め方によって、要件の満たし方が変わります
自己資金は基準資産額を増やします。借入は資産と負債を同時に増やすため、負債比率の条件に効いてきます。助成金は後払いで、申請の時点では当てにできません。
人材派遣の会社設立では、この性格の違いを理解したうえで順序を決めてください。集めればよいというものではありません。
融資の可否は金融機関が判断します。許可の要件は所管の都道府県労働局が判断します。税務の判断は税理士へ、社会保険と労務の手続きは社会保険労務士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説です。
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