人材派遣の資産要件を満たさないとき、何ができて何ができないのか
要件が足りないと分かった方へ
人材派遣の会社設立を考えていて、資産要件を満たせないと分かった方に向けた記事です。
この記事は、抜け道を書くものではありません。正攻法でできることと、勧められないことを分けて整理します。
結論は一貫して、要件を満たしてから申請する、判断に迷うところは所管の都道府県労働局に相談する、というところに置いています。
まず、どの要件がいくら足りないのかを分ける

資産要件を満たさないと分かったとき、最初にやることは、どの要件がいくら足りないのかを分けることです。
資産要件は三つあります。基準資産額、自己名義の現金・預金、負債比率です。それぞれ別の要件なので、対応も違います。
| 足りない要件 | 考えられる原因 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 借入で資金を用意している/累積の赤字がある | 資本の増強、負債の圧縮 |
| 自己名義の現金・預金 | 資産の大部分が不動産や車両になっている | 現金・預金として持つ資金の確保 |
| 負債比率 | 既存の事業で借入が大きい | 負債の圧縮、または自己資本の増強 |
| 繰延資産の分だけ足りない | 創業費・開業費を繰延資産に計上している | 会計処理の見直しを税理士に相談 |
どの方法が適切かは会社の状況によって変わります。会計処理の判断は税理士に、要件の判定は所管の都道府県労働局にご確認ください。
いちばん多いのが、一つ目です。現金・預金は1,500万円あるのに基準資産額が足りない、という形です。原因は負債にあります。
人材派遣の会社設立を進める過程で、この形になることがあります。会社設立の資金を金融機関からの融資でまかなった場合です。融資を受けた時点では預金が増えますが、基準資産額は増えていません。
基準資産額は資産の総額から負債の総額を控除した額なので、借入で用意した資金は相殺されてしまいます。人材派遣の会社設立で借入が使えないと言われるのは、このためです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
正攻法その1|資本金として資金を入れる

いちばん確実な方法が、資本金として資金を入れることです。純資産が増えるため、基準資産額もそのまま増えます。
これから会社設立をするのであれば、資本金の額を資産要件から逆算して決めるだけです。設立費用と許可申請費用、営業開始までの固定費の分も上乗せしておいてください。
すでに会社設立を済ませている場合は、増資という手続きになります。株式会社であれば募集株式の発行、合同会社であれば社員の出資の追加や新たな社員の加入です。
- 株式会社:募集事項の決定、募集株式の申込み、割当て、出資の履行、変更登記
- 合同会社:社員が出資を追加するか、新たな社員を加入させる。定款変更を伴います
- 変更登記の登録免許税:増加した資本金の額の1000分の7。3万円に満たないときは3万円
- 期間:決議から登記完了まで数週間かかることがあります
ここで注意が要るのは、増資をしてもそれが決算書に反映されるのは決算のときだということです。資産要件は直近の決算書で判定されるため、増資してすぐに申請できるとは限りません。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
正攻法その2|役員借入金を資本に組み入れる

代表者が会社にお金を貸している状態、いわゆる役員借入金がある場合、これを資本に組み入れるという方法があります。負債が減り、純資産が増えるため、基準資産額の改善につながります。
会計処理としては成り立つ方法です。ただし、いくつか確かめておくことがあります。
- 債権を現物出資する形になるため、募集株式の発行の手続きが必要です
- 変更登記が必要で、登録免許税がかかります
- 税務上の取扱いがあります。債務の額と時価の関係によっては、法人側で債務消滅益が生じることがあります
- 株主構成が変わるため、既存の株主がいる場合は影響を確かめる必要があります
- 決算書に反映されるのは決算のときです
三つ目の税務上の取扱いが重要です。役員借入金の資本組入れは、状況によって法人税の課税を生じさせることがあります。実行する前に必ず税理士にご相談ください。
また、この方法が使えるのは役員借入金がある場合に限られます。会社設立をしたばかりで役員借入金がなければ、単純に増資をすることになります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
正攻法その3|事業所を1か所に絞る

資産要件は、事業所の数を乗じた額になります。したがって、事業所を減らせば必要な額も減ります。
| 事業所数 | 基準資産額 | 自己名義の現金・預金 |
|---|---|---|
| 1か所 | 2,000万円以上 | 1,500万円以上 |
| 2か所 | 4,000万円以上 | 3,000万円以上 |
| 3か所 | 6,000万円以上 | 4,500万円以上 |
基準資産額が負債の総額の7分の1以上という要件も、同時に満たす必要があります。
会社設立の段階で複数拠点を計画していても、まずは事業所1か所で許可を取り、事業が軌道に乗ってから増やすという順番が現実的です。必要な資本金を抑えられるからです。
ただし、事業所を増やすときには増えた事業所数で資産要件を満たす必要があります。1か所で許可を取ったあと2か所目を開設するなら、そのときに基準資産額4,000万円・自己名義の現金預金3,000万円を満たしていなければなりません。
あわせて、事業所ごとに派遣元責任者を選任する必要があります。事業所を増やすということは、人も増やすということです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
勧められないこと|申請の直前だけ数字を作る

ここからは、勧められないことを書きます。
ひとつ目が、申請の直前だけ数字を作ることです。一時的に資金を入れて基準資産額を満たし、許可を取ったあとに引き出す、といった形です。
この方法が勧められない理由は三つあります。
- 制度が想定していない。 資産要件は直近の決算書で判断されます。増加を申し立てる場合は、公認会計士または監査法人による手続が必要です。
- 更新でまた同じ問題が起きる。 許可の有効期間は初めての許可が3年、そのあとは5年ごとです。更新のたびに資産要件は確かめられます。
- 事業が回らない。 人材派遣は派遣スタッフの給与を先に払う事業です。運転資金がなければ、許可があっても事業を続けられません。
二つ目の理由が、実務上いちばん重いところです。会社設立のときに無理をして要件を満たしても、3年後の更新でまた同じことをする必要があります。そのときに事業が黒字になっていなければ、要件を満たせません。
ですから、数字を作るのではなく、資産を実際に積み上げることが結局いちばん確実です。時間はかかりますが、そのほうが事業として続きます。
人材派遣の会社設立を急ぐ理由があるとしても、要件を満たさないまま進めれば結果は変わりません。会社設立の登記は済んでも、許可が下りなければ営業できないからです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
勧められないこと|請負や業務委託に切り替える

二つ目が、労働者派遣ではなく請負や業務委託という形にして、許可を取らずに進めることです。
労働者派遣と請負の区分は、契約の名称ではなく実態で判断されます。厚生労働省は、昭和61年労働省告示第37号として「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」を定めています。
契約書に「業務請負契約」と書いても、実際に発注者が労働者に直接指揮命令をしていれば、労働者派遣に当たると判断されます。これがいわゆる偽装請負です。
告示に定められた基準の一部を挙げます。請負として仕事を受けるなら、これらを自ら行っている必要があります。
- 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を、自ら行うこと
- 労働者の始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を、自ら行うこと
- 企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を、自ら行うこと
- 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任で調達し、支弁すること
- 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと
なお、請負として実際に仕事を受けること自体は問題ありません。区分の基準を守れるなら、それは正当な事業です。この記事で勧めていないのは、要件を避けるために形だけ請負にすることです。
実際、人材派遣の会社設立の前に請負で事業を始め、資産を積み上げてから許可を申請する、という進め方もあり得ます。ただしその場合も、請負として仕事を受けているあいだは区分の基準を守る必要があります。
労働者派遣事業の許可証の交付時には、労働局が労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分についての講習を実施することとされています。それだけ間違いが起きやすい論点だということです。
出典労働者派遣事業に係る法令・指針・疑義応答集・関連情報等 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
勧められないこと|名義を借りる

三つ目が、資産要件を満たしている人や法人の名義を借りることです。
厚生労働省の許可基準は、名義貸しを明確に否定しています。派遣元責任者となり得る者の名義を借用して許可を得ようとするものでないこと、派遣元事業主となり得る者の名義を借用して許可を得るものではないこと、と書かれています。
これは資産要件に限った話ではなく、許可全体についての基本の考え方です。実際に事業を行う人が、要件を満たしたうえで許可を受ける。これが制度の前提です。
あわせて、二重派遣という問題もあります。派遣された労働者をさらに別の会社に派遣する形です。これは労働者派遣法や職業安定法の問題になります。
人材派遣の会社設立で資産要件を満たせないとき、他社の許可を使うという発想が出てくることがあります。これは避けてください。
この記事で繰り返しているとおり、結論は要件を満たしてから申請することです。満たせないうちは、会社設立を先に延ばすという判断が現実的です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
時期を見直すという判断

正攻法を試しても資産要件を満たせない場合、会社設立の時期そのものを見直すという判断があります。
消極的な結論に見えるかもしれません。ただ、人材派遣は許可が下りなければ営業できない事業です。要件を満たさないまま会社設立をしても、登記費用と固定費が出ていくだけになります。

会社設立を先に延ばすあいだに、資金を貯めることもできます。人材派遣の会社設立には基準資産額2,000万円という資産要件があるので、時間をかけることには意味があります。
そのあいだに、派遣元責任者の要件を満たすための経験を積むこともできます。成年に達した後3年以上の雇用管理の経験は、時間をかけないと満たせないものだからです。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|できることと、できないこと

資産要件を満たさないときにできることと、勧められないことをまとめます。
- まず、どの要件がいくら足りないかを分ける。 基準資産額、現金・預金、負債比率は別の要件です。
- 正攻法1:資本金として資金を入れる。 増資には手続きと変更登記が必要です。
- 正攻法2:役員借入金の資本組入れ。 会計処理として成り立ちますが、税務上の取扱いに注意してください。
- 正攻法3:事業所を1か所に絞る。 資産要件は事業所数を乗じた額です。
- 勧められない1:申請の直前だけ数字を作る。 更新のたびに同じ問題が起きます。
- 勧められない2:形だけ請負にする。 区分は実態で判断されます。無許可の労働者派遣には罰則があります。
- 勧められない3:名義を借りる。 許可基準が明確に否定しています。
- 時期を見直すという判断もある。 要件を満たしてから会社設立をするほうが安く済みます。
結論は一貫しています。要件を満たしてから申請すること。判断に迷うところは、所管の都道府県労働局に相談することです。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。資産要件を満たすかどうかの判定は所管の都道府県労働局へ、増資や会計処理の判断は税理士・司法書士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
急いでも、許可は下りません
資産要件を満たさないまま会社設立をしても、労働者派遣事業の許可は下りません。その間、法人住民税の均等割や決算・申告の費用だけがかかります。
そして許可の更新のたびに、資産要件はまた確かめられます。会社設立のときに無理をして要件を満たしても、事業が黒字にならなければ3年後につまずきます。
資産要件を満たすかどうかの判定は所管の都道府県労働局へ、増資や会計処理の判断は税理士・司法書士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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