業務委託で始めるつもりの方へ。人材派遣の会社設立と指揮命令の線引き
許可の要件が重いと感じている方へ
人材派遣の会社設立を考えたものの、資産要件の重さを見て業務委託での開業を考えはじめた方に向けた記事です。
業務委託であれば労働者派遣事業の許可は要りません。ただし、それは実態が本当に請負である場合に限られます。
この記事では、指揮命令の線引きと、それぞれの制度で必要になるものを並べて整理します。判断の材料にしてください。
許可が要らないから、という理由で選ばない

人材派遣の会社設立を調べていくと、許可の要件の重さに驚かれることがあります。
基準資産額が2,000万円に事業所数を乗じた額以上。事業資金として自己名義の現金・預金の額が1,500万円に事業所数を乗じた額以上。基準資産額が負債の総額の7分の1以上。
この数字を見て、業務委託なら許可が要らないのではないか、と考える方がいらっしゃいます。
しかし、この順序は逆です。制度は、実態から決まります。
昭和61年労働省告示第37号の第二条は、請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とすると定めています。
つまり、契約書に業務委託と書いても、各号を満たしていなければ労働者派遣事業をしているとされるということです。
そして、労働者派遣事業の許可を受けていなければ、無許可で労働者派遣事業を行ったことになります。
人材派遣の会社設立を考えるなら、まず実態を決めてください。制度は、そのあとについてきます。
そして、告示第三条は、各号のいずれにも該当する事業主であっても、法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって、その事業の真の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができないと定めています。
形を整えるという発想が、そもそも通用しないということです。会社設立の段階で、この点を理解しておいてください。
出典労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
指揮命令が、どこにあるか

労働者派遣と請負の線引きは、指揮命令がどこにあるかで説明できます。
労働者派遣では、派遣先が派遣スタッフに指揮命令をします。作業の方法を指示し、労働時間を管理し、配置を決めるのは派遣先です。
請負では、これらをすべて自社が行います。発注者は仕事の結果を求めるだけで、働く人への指示は自社が出します。
告示第二条第一号は、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであることを求め、そのために三つの管理を自ら行うこととしています。
- 業務の遂行に関する指示その他の管理。 業務の遂行方法に関する指示、業務の遂行に関する評価等に係る指示。
- 労働時間等に関する指示その他の管理。 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示。労働時間を延長する場合や休日に労働させる場合の指示。いずれも単なる把握を除く。
- 企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理。 服務上の規律に関する事項についての指示、労働者の配置等の決定及び変更。
これらを自社が行っていなければ、請負とは言えません。
人材派遣の会社設立を考えている方にとって、この線引きは重要です。現場に自社の責任者を置けるかどうかが、分かれ目になります。
なお、ロの括弧書きには単なる把握を除くと書かれています。発注者が作業の進み具合を把握することと、労働時間を管理することは別だということです。
出典労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
独立して処理しているか

告示第二条第二号は、業務を自己の業務として、契約の相手方から独立して処理するものであることを求めています。
イは、業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロは、業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハは、自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材又は材料若しくは資材により業務を処理すること、または、自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理すること。そして、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
ハの最後の一文が、判断の核心です。人を出すだけの事業は、請負にはなりません。
会社設立の段階で、自社が何を持っているのかを整理してください。設備があるのか、専門的な技術があるのか、企画で処理できるのか。
何も持たずに人だけを出すのであれば、それは労働者派遣です。人材派遣の会社設立と許可の取得を前提に計画を立ててください。
そして、イの資金の調達も見られます。発注者から設備も材料も提供され、指示も受けているなら、独立して処理しているとは言いにくくなります。
出典労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
それぞれで必要になるものを並べる

労働者派遣事業として行う場合と、請負として行う場合で、必要になるものを並べてみます。

左の側は、要件が明確です。金額も面積も示されています。満たしているかどうかが判断できます。
右の側は、要件が実態で決まります。書類を整えれば済むものではありません。日々の運用が問われ続けます。
そして、右の側は判断が難しいという性格があります。労働局の調査で指摘されるまで、自社では分からないということが起こり得ます。
人材派遣の会社設立を考えている方にとって、左の側のほうが見通しが立てやすいという面があります。要件が明示されているからです。
また、労働者派遣事業では許可を受けていること自体が信頼につながります。派遣先の側も、許可番号を確認できるからです。会社設立の段階で許可を前提にしておけば、営業の場面でも説明しやすくなります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
資産要件を満たせない場合の考え方

資産要件を満たせないという理由で業務委託を選ぶのは、順序が逆です。では、どうすればよいのか。
正攻法は、要件を満たしてから申請することです。
会社設立のときに資本金を積む。これがいちばん素直な方法です。基準資産額2,000万円という水準を、資本金として用意します。
すでに会社がある場合は、増資という方法があります。会社法の手続きに従って資本金を増やします。
役員からの借入金がある場合、それを資本に振り替えるという会計上の処理が行われることもあります。ただし、これは会計と税務の判断を伴います。必ず税理士にご相談ください。
そして、中間決算や月次決算の数字を使う場合には、公認会計士又は監査法人による手続が必要とされています。厚生労働省の業務取扱要領に定めがあります。
人材派遣の会社設立では、時間をかけて資金を用意するという選択もあります。準備が整ってから申請するほうが、確実です。
そして、資産要件は許可の更新のときにも確認されます。厚生労働省の業務取扱要領は、更新申請の際にも許可の基準を満たすことが必要である旨を示しています。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
指摘されたときに起こること

実態が労働者派遣であると判断された場合、何が起こるのかを整理します。
労働者派遣法第48条第1項は、厚生労働大臣が労働者派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、必要な指導及び助言をすることができると定めています。
第49条第1項は、改善命令の定めです。適正な派遣就業を確保するため必要があると認めるときは、必要な措置を講ずべきことを命ずることができるとされています。
そして、許可を受けないで労働者派遣事業を行った者については、第59条第2号により1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています。
第62条は、法人の代表者などが違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対しても各本条の罰金刑を科すると定めています。
さらに、取引先を失うという実際的な問題もあります。発注者の側も、労働者派遣法第4条第3項などの規定に関わるからです。
人材派遣の会社設立では、この結果を避けるために、最初から正しい制度を選んでください。
出典労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(e-Gov法令検索) (e-Gov法令検索/2026年8月27日確認)
許可を前提にした会社設立の組み立て

労働者派遣事業の許可を前提に、会社設立を組み立ててみます。

二つ目と三つ目が肝心です。必要な資金の総額を出してから、資本金を決めます。
資産要件を満たす金額と、実際に出ていくお金は別のものです。会社設立の費用も、許可申請の手数料も、事業所の初期費用も、基準資産額を減らします。
人材派遣の会社設立では、この計算を先にしてください。数字が出れば、いつ始められるかも見えてきます。
そして、七つ目と八つ目は登記を待たずに進められます。並行して進めれば、許可申請までの期間が短くなります。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
それでも請負で行う場合

自社の事業が本当に請負であるなら、請負として行うことになります。
その場合に大切なのは、実態を維持し続けることです。
契約の開始時には請負の形が整っていても、運用のなかで発注者の指示が増えていくということが起こります。
現場では、発注者の担当者が直接指示を出すほうが早いからです。しかし、それを続ければ実態が変わります。
厚生労働省は、この告示に関する疑義応答集を公表しています。具体的な場面での考え方が示されているため、参照してください。
そして、定期的に確認する仕組みを作ってください。契約の内容と現場の運用が合っているかどうかです。
将来的に人材派遣の会社設立を考えるなら、その準備も並行して進めることになります。資金を貯め、要件を満たしてから許可を申請するという道です。
出典労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|業務委託と人材派遣の選び方

業務委託と人材派遣の選び方について、まとめます。
- 許可が要らないから、という理由で選ばない。 制度は実態から決まります。
- 指揮命令がどこにあるかが線引き。 三つの管理を自社が行っているかどうかです。
- 独立して処理しているか。 資金、事業主としての責任、設備または企画・専門性。
- 人を出すだけの事業は請負にならない。 告示第二条第二号ハの定めです。
- 資産要件は正攻法で満たす。 会社設立のときに資本金を積むか、増資をします。
- 指摘されれば事業が止まる。 指導、改善命令、罰則、取引先の喪失。
- 許可を前提に会社設立を組み立てる。 必要な総額から資本金を逆算します。
人を送り出して他社の指揮命令の下で働かせるなら、それは労働者派遣です。人材派遣の会社設立と許可の取得を前提に計画を立ててください。
要件は重いものです。しかし、満たしてしまえば迷いがなくなります。堂々と事業ができます。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料とe-Gov法令検索の条文により確認したものです。制度は改正されます。個別の事案の判断は所管の都道府県労働局が行います。契約や体制の設計は社会保険労務士へ、税務の判断は税理士へご相談ください。
出典労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
実態から制度を選んでください
許可が要らないから業務委託にする、という順序で考えないでください。実態が労働者派遣なら、業務委託という契約名は意味を持ちません。
人を送り出して他社の指揮命令の下で働かせるなら、人材派遣の会社設立と労働者派遣事業の許可を前提に計画を立ててください。
個別の事案の判断は所管の都道府県労働局が行います。契約や体制の設計は社会保険労務士へ、税務の判断は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行は行いません。
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