資金はどこで尽きるのか。人材派遣の会社設立で起きやすい失敗の型
うまくいかない場面を先に知りたい方へ
人材派遣の会社設立を考えていて、どこでつまずきやすいのかを先に知っておきたい方に向けた記事です。
この記事は、良い面だけを書くものではありません。資金が尽きやすい場面と、その理由を整理します。
先に知っておけば、備えることができます。備えられないと分かれば、計画を組み直すこともできます。
一つ目|許可が下りるまでの空白

最初につまずきやすいのが、許可が下りるまでの期間です。
労働者派遣法第5条第1項は、労働者派遣事業を行おうとする者は厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定めています。
許可を受けないで行えば、同法第59条第2号により1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金の対象になります。
つまり、許可が下りるまで派遣の売上はゼロだということです。
その間も、事業所の家賃は出ていきます。役員報酬を設定していれば、それも出ていきます。社会保険料の事業主負担も発生します。
許可申請の時期の目安は、事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までとされています。会社設立の準備期間と、申請書類を整える期間を足せば、さらに長くなります。
人材派遣の会社設立では、この期間の固定費を別に用意してください。基準資産額を取り崩せば、資産要件を割ってしまいます。
そして、この期間が想定より延びることもあります。書類の不備で差し戻されれば、その分だけ後ろにずれます。
そして、この期間は準備の時間としても使えます。就業規則の作成、教育訓練の実施計画の作成、記録の様式づくり、派遣先候補への説明。売上は立ちませんが、できることはあります。
人材派遣の会社設立では、この期間を無駄にしないでください。準備が整っていれば、許可が下りた翌日から動けます。
会社設立の登記から許可までを何か月と見込むか、その月数を紙に書いてから資金計画を作ってください。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
二つ目|賃金の立替

事業が始まってから最初に効いてくるのが、賃金の立替です。
派遣スタッフには、毎月の給与支払日に賃金を払います。社会保険料も毎月納付します。
一方、派遣先からの入金は締めのあとになります。月末締めの翌月末払いという条件であれば、働いた月から2か月近く先になることもあります。
つまり、先に払い、あとから回収するということです。

この図で見ていただきたいのは、いちばん下です。人数が増えれば、立替の額も増えます。
事業が伸びているのに現金が足りない、という状態が起こります。損益計算書が黒字でも、現金は減っていきます。
人材派遣の会社設立では、この立替の資金を用意してください。要件を満たす額とは別に必要です。
そして、派遣先との支払条件も交渉の対象です。締めから入金までの期間を短くできれば、立替の額も減ります。
そして、社会保険料は毎月納付します。賃金と同じように、入金を待たずに出ていく費用です。派遣スタッフが増えれば、この額も増えます。
人材派遣の会社設立では、開業時の人数だけでなく、一年後の人数でも計算してみてください。伸びたときにいくら必要になるかが分かります。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
三つ目|稼働率の低下

三つ目は、稼働率の低下です。
派遣スタッフを雇用していても、就業先がなければ収入は生まれません。
しかし、雇用契約が続いていれば、賃金の問題は残ります。仕事がない期間の扱いを決めておく必要があります。
そして、派遣先との契約は終わることがあります。案件が終了すれば、次の就業先を探すことになります。
その間、収入はありません。
さらに、教育訓練の日も稼働にはなりません。厚生労働省の資料は、許可の基準として求められる教育訓練について、有給かつ無償で実施することが原則であるとしています。
有給休暇を取得した日も同じです。派遣先から料金は入りませんが、賃金は発生します。
人材派遣の会社設立で収支を組むとき、全員が常に稼働している前提を置かないでください。稼働率を見込んだ計算にしてください。
そして、派遣スタッフが辞めることもあります。採用にかけた費用も、入職時の教育訓練にかけた費用も、戻りません。
人材派遣の会社設立では、定着率も収支に効いてくると考えてください。採用と教育を繰り返せば、その分の費用が積み上がります。
会社設立の収支計画では、稼働率を高めに置きすぎないでください。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
四つ目|更新のときの資産不足

四つ目は、許可の更新のときです。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。
そして、厚生労働省の業務取扱要領は、更新申請の際にも許可の基準を満たすことが必要である旨を示しています。
つまり、3年後にもう一度、資産要件を満たしていることが求められるということです。
基準資産額が2,000万円に事業所数を乗じた額以上であること。基準資産額が負債の総額の7分の1以上であること。事業資金として自己名義の現金・預金の額が1,500万円に事業所数を乗じた額以上であること。
会社設立のときに資本金を2,000万円積んでも、3年間赤字が続けば、この額は減っていきます。
そして、更新の申請は、有効期間が満了する日の3か月前までに提出する必要があります。直前で気づいても間に合いません。
人材派遣の会社設立では、利益が残る価格設計にしておいてください。それが要件を維持する方法です。
そして、更新のときには事業の運営状況も見られます。厚生労働省の業務取扱要領は、キャリア形成支援制度について、更新申請の直前の有効期間内において許可の基準を満たす実施状況であったかを確認するとしています。
教育訓練を実施していなければ、記録がなければ、ここで問題になります。人材派遣の会社設立では、日々の記録を残す仕組みを最初に作ってください。
会社設立から3年は、あっという間に過ぎます。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
四つの場面を、時系列で並べる

四つの場面を時系列で並べてみます。

いずれも、あらかじめ分かっている場面です。
分かっているなら、備えることができます。
人材派遣の会社設立では、この四つに耐えられる資金計画を立ててください。
そして、耐えられないと分かったら、計画を組み直してください。開業の時期を遅らせて資金を貯める、事業所を一つに絞る、扱う分野を絞る。方法はあります。
無理に始めて途中で止まるより、準備してから始めるほうが確実です。
そして、四つのうち三つは事業を始めたあとに来ます。始める前に備えておかなければ、対応の余地は狭くなります。
そして、四つの場面は互いにつながっています。許可までの空白で資金を減らせば、立替に耐える余力が減ります。立替で現金が細れば、稼働が途切れたときに持ちこたえられません。
人材派遣の会社設立では、この連鎖を断つために、最初の資金を厚くしておくことが最も効きます。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
価格設計を誤ると、四つすべてに効きます

四つの場面すべてに効いてくるのが、価格設計です。
派遣料金から賃金を引いた差額が、会社の取り分になります。ただし、そこから社会保険料の事業主負担、教育訓練の費用、営業と事務の人件費、事業所の家賃が出ていきます。
差額が薄ければ、これらを賄えません。
そして、賃金には下限があります。労使協定方式を選ぶ場合、協定対象派遣労働者の賃金の額は、同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同等以上であることが必要とされています。
賃金を下げて差額を増やすことはできないということです。
したがって、派遣料金を適切に設定するしかありません。
会社設立の直後は実績がないため、価格を下げて案件を取りたくなります。しかし、その価格が数年続きます。
人材派遣の会社設立では、最低ラインを先に決めてから営業してください。そのラインを割る案件は受けないという判断も必要です。
そして、いったん決めた派遣料金を途中で上げるのは簡単ではありません。契約の更新のタイミングで交渉することになります。
労働者派遣法には、派遣先が派遣料金の額について配慮することを求める規定がありますが、配慮が求められていることと、必ず値上げに応じてもらえることは違います。
会社設立の段階で、1人あたりの粗利と月の固定費を書き出し、何人で固定費を賄えるかを計算しておいてください。その人数に届く見込みがあるかどうかが、判断の分かれ目になります。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
固定費を軽くしておく

備えの一つは、固定費を軽くしておくことです。
事業所を一つにする。労働者派遣事業の資産要件は事業所の数を乗じた額で見られます。事業所を増やせば、必要な資産も増えます。
役員報酬を抑える。許可が下りるまでの期間は、特にそうです。ただし、事業年度の途中では原則として変えられない取扱いがあります。会社設立の段階で決めておいてください。
システムは必要なものから。勤怠管理と給与計算は必要ですが、最初から大きな仕組みを入れる必要はありません。
人を雇う時期を見極める。営業と事務の担当を最初から置けば、その分の固定費が出ます。
これらを軽くしておけば、稼働が途切れたときにも耐えられます。
人材派遣の会社設立では、小さく始めて、事業が回り始めてから増やすという順序が現実的です。
そして、専門家への報酬も固定費です。税理士と社会保険労務士に依頼すれば、毎月の顧問料が発生します。ただし、自分で全部やろうとすれば、その時間が営業や採用から奪われます。
人材派遣の会社設立では、どこを自分でやり、どこを任せるかを決めてください。両方を抱え込めば、どちらも中途半端になります。
会社設立の直後は、代表者が営業も事務も兼ねることが多くなります。それ自体は悪いことではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
月次で数字を見る

もう一つの備えは、月次で数字を見ることです。
年に一度の決算だけでは、気づくのが遅くなります。
見る項目を決めておいてください。
- 現金・預金の残高。資産要件にも関わります。
- 純資産の額。基準資産額の目安になります。
- 売上と粗利。派遣先ごと、派遣スタッフごとに見られると理想的です。
- 人件費と法定福利費。賃金に連動して増えます。
- 固定費。役員報酬、家賃、システム、専門家報酬。
- 稼働人数と稼働率。事業の状態を示します。
- 翌月と翌々月の資金繰りの見込み。
一つ目と二つ目は、許可の要件に直結します。減っていることに早く気づけば、対応の時間が取れます。
七つ目の資金繰りの見込みも大切です。損益ではなく、現金の動きを見ることです。
人材派遣の会社設立では、この仕組みを最初に作ってください。取引が少ないうちのほうが、仕組みを作りやすくなります。
そして、これらの数字は金融機関に説明するときにも使えます。追加の借入を考えるなら、なおさら必要です。
人材派遣の会社設立では、月次の資料を毎月同じ形で作ってください。形が同じであれば、変化に気づきやすくなります。
会社設立の一年目は、この習慣をつける年でもあります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|資金が尽きる場面

人材派遣の会社設立で資金が尽きやすい場面について、まとめます。
- 許可が下りるまでの空白。 売上がないまま固定費が出ていきます。
- 賃金の立替。 先に払い、あとから回収します。人数が増えれば立替も増えます。
- 稼働率の低下。 就業先がなくても、雇用契約が続いていれば賃金の問題が残ります。
- 更新のときの資産不足。 3年後にも資産要件を満たしている必要があります。
- 価格設計が四つすべてに効く。 差額が薄ければ、どの場面にも耐えられません。
- 固定費を軽くしておく。 小さく始めて、回り始めてから増やします。
- 月次で数字を見る。 早く気づけば、対応の時間が取れます。
これらは、あらかじめ分かっている場面です。人材派遣の会社設立では、この四つに耐えられる資金計画を立ててください。
そして、耐えられないと分かったら、開業の時期を遅らせるという判断もあります。準備してから始めるほうが確実です。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料とe-Gov法令検索の条文により確認したものです。制度は改正されます。資金計画と税務の判断は税理士へ、賃金と社会保険の設計は社会保険労務士へ、許可の要件は所管の都道府県労働局へご相談ください。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
備えられるうちに、計画を見直してください
資金が尽きる場面は、あらかじめ分かっています。許可までの空白、賃金の立替、稼働率の低下、更新時の資産不足。
人材派遣の会社設立では、この四つに耐えられる資金計画を立ててください。耐えられないなら、開業の時期を遅らせるという判断もあります。
資金計画と税務の判断は税理士へ、賃金と社会保険の設計は社会保険労務士へ、許可の要件は所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説です。
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