人材派遣会社の設立方法を、事業計画から逆に組み立てる
手続きの前に、事業の形を決めたい方へ
人材派遣会社の設立方法を調べると、たいてい手続きの順番が出てきます。定款をつくって、登記して、許可を申請して、という並びです。
ただ、その手続きに入る前に決めておくことがあります。何人の派遣スタッフを、どんな業種の何社に派遣するのか。この事業の形が決まらないと、資本金の額も事業所の数も決められません。
この記事は、手続きの話ではなく事業の形から逆算する話です。すでに手続きの流れをご存じの方にも読んでいただけるように書いています。
先に決めるのは、手続きではなく事業の形

人材派遣会社の設立方法を手続きの順で追うと、最初に来るのは定款です。しかし実務では、その前に決めておかなければならないことがあります。事業の形です。
具体的には、次の三つです。この三つが決まると、資本金の額と事業所の数、そして許可申請の時期がおのずと決まってきます。
- 何人を派遣するのか初年度に何人の派遣スタッフを雇うのか。人数は運転資金と社会保険の事務量に直結します。
- どの業種に派遣するのか派遣が禁止されている業務があります。事業計画の前提としてまず確かめます。
- 事業所を何か所にするのか資産要件は事業所数を乗じた額になります。1か所か2か所かで、必要額が倍違います。
三つ目がとりわけ重要です。基準資産額は2,000万円に事業所の数を乗じた額以上、自己名義の現金・預金は1,500万円に事業所の数を乗じた額以上とされています。事業所を2か所にすれば、基準資産額4,000万円・現金預金3,000万円が必要になります。
会社設立の段階で「将来は複数拠点にしたい」と考えていても、最初は1か所から始めるという判断が現実的なことが多いのは、この掛け算のためです。会社設立のあとで事業所を増やすときには、変更の届出とあわせて資産要件も増えた事業所数で見られることになります。

出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
派遣できない業務を、計画の前に外す

事業計画を立てる前に、そもそもその業務に派遣できるのかを確かめる必要があります。労働者派遣が禁止されている業務があるからです。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 病院等における医療関係の業務(一部の例外があります)
- いわゆる士業の業務など、法令で労働者派遣が認められていないもの
これらは適用除外業務と呼ばれ、労働者派遣を行うことができません。人材派遣会社の設立方法を調べる前に、参入しようとしている分野がここに当たらないかを確かめてください。当たっていれば、計画そのものを組み直すことになります。
また、日雇い派遣(日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者についての労働者派遣)は原則として禁止されています。例外として認められる場合はありますが、その範囲は限られています。短期の仕事を数多く回す形の事業計画を考えている場合は、この原則禁止を前提に組み直す必要があります。
なお、建設業務については、建設業務労働者就業機会確保事業という別の仕組みがあります。これは労働者派遣とは別の制度です。人材派遣の会社設立とは手続きも要件も違うため、混同しないようにしてください。
計画している業務が派遣できないと分かった場合、人材紹介(有料職業紹介事業)や業務委託という別の形を検討することになります。ただしこれらは労働者派遣とは別の制度で、必要な許可も資産要件も違います。会社設立の前に、どの制度で事業を行うのかを決めておいてください。
出典労働者派遣事業に係る法令・指針・疑義応答集・関連情報等 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
人数から、必要な運転資金を出す

何人の派遣スタッフを雇うかが決まると、必要な運転資金が計算できます。人材派遣は、派遣スタッフへの給与が先で、派遣先からの入金が後という順番だからです。
計算の考え方はこうです。派遣スタッフ1人あたりの月額給与に、社会保険料の事業主負担と労働保険料を足します。これに人数を掛けて、入金までの月数を掛けます。

この金額は、許可の資産要件とは別に用意する必要があります。基準資産額2,000万円を満たすために置いてある資金を運転資金として使えば、その分だけ基準資産額は減っていくからです。
そして人材派遣の特徴は、この必要額が事業の成長とともに増えることです。10人が20人になれば、先に払う給与も倍になります。売上が伸びているのに現金が足りない、という状態はここから生まれます。会社設立の計画では、この点を織り込んでおいてください。
会社設立の初年度は、営業を始めるまでの期間も含めて赤字になりやすい時期です。その赤字が基準資産額を削っていけば、3年後の許可の更新に響きます。人材派遣の会社設立で資本金に余裕を持たせる理由は、この先を見据えているからです。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
事業所の要件から、物件を選ぶ

事業計画で事業所の数が決まったら、次は物件です。労働者派遣事業の許可基準は、事業所について次のように定めています。
事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あること。その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること。風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと。
この20平方メートルには、派遣元責任者が仕事をする場所だけでなく、派遣スタッフと面談やキャリアコンサルティングを行うための、個人的な秘密を保持できる場所の分が含まれます。物件を選ぶときは、床面積の数字だけでなく、区画が取れるかどうかを見てください。

賃貸借契約を結んでしまってから要件を満たさないと分かると、移転か区画の追加という手戻りになります。敷金・礼金・仲介手数料が二重にかかるうえ、その分だけ許可申請が後ろにずれます。人材派遣の会社設立で物件を急がないほうがよいのは、このためです。
なお、会社設立の本店所在地と、労働者派遣事業の事業所は別の場所にすることもできます。自宅を本店にして会社設立をし、事業所は別に借りるという形です。ただし事業所を増やせば資産要件も増えるため、本店を事業所として使えるかどうかは早めに確かめておいてください。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
派遣元責任者を、事業所の数に合わせて置く

派遣元責任者は、事業所ごとに選任します。事業計画で事業所を複数にする場合、その数だけ要件を満たす人が必要になります。
許可基準は、組織的基礎について「派遣労働者数に応じた派遣元責任者が配置される等組織体制が整備されるとともに、労働者派遣事業に係る指揮命令の系統が明確であり、指揮命令に混乱の生ずるようなものではないこと」としています。
そして派遣元責任者になれる人の要件は、次のようなものです。会社設立の段階で、社内にこの要件を満たす人がいるかを確かめておいてください。
- 未成年者でなく、欠格事由のいずれにも該当しないこと
- 成年に達した後、3年以上の雇用管理の経験を有する者であること(人事・労務の担当者、事業主や役員、支店長・工場長その他事業所の長など監督若しくは管理の地位にある者を含む)
- または職業安定行政・労働基準行政、民営職業紹介事業、労働者供給事業の従事者として、成年に達した後3年以上の経験を有する者であること
- 住所及び居所が一定しない等、生活根拠が不安定な者でないこと
- 適正な雇用管理を行う上で支障がない健康状態であること
- 派遣元責任者講習を、許可の申請の受理の日前3年以内に受講していること
- 派遣元責任者が苦情処理等の場合に、日帰りで往復できる地域に労働者派遣を行うものであること
あわせて、派遣元責任者が不在の場合の臨時の職務代行者もあらかじめ選任しておく必要があります。一人で人材派遣の会社設立をする場合、この職務代行者をどう用意するかが計画上の課題になります。共同で会社設立をするか、要件を満たす人を採用するか。どちらにしても、会社設立の設計に関わる判断です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
計画を、労働者派遣事業計画書に落とす

ここまで組み立ててきた計画は、許可申請の際に労働者派遣事業計画書(様式第3号)として提出します。頭のなかの構想ではなく、書類として審査の対象になります。
様式第3号には、事業所ごとの当該事業に係る計画を書きます。あわせて様式第3号-2でキャリア形成支援制度に関する計画書を、派遣労働者のうち雇用保険または健康保険・厚生年金保険の未加入者がいる場合には様式第3号-3を提出します。
計画書のなかで、資産等の状況を書く欄があります。厚生労働省の業務取扱要領は、基準資産額や自己名義の現金・預金の額について、貸借対照表または労働者派遣事業計画書(様式第3号)の「3 資産等の状況」欄により確認する、としています。つまりここが、資産要件の判定に直接使われます。
- 様式第1号
- 労働者派遣事業許可申請書。正本1通・写し2通
- 様式第3号
- 労働者派遣事業計画書。事業所ごとの計画。正本1通・写し2通
- 様式第3号-2
- キャリア形成支援制度に関する計画書
- 様式第3号-3
- 派遣労働者のうち雇用保険または健康保険・厚生年金保険の未加入者がいる場合にのみ提出
様式そのものは都道府県労働局のサイトからダウンロードできます。記載例も公開されているところが多いので、会社設立の前に一度目を通しておくと、何を決めておく必要があるかが具体的に見えてきます。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
計画から逆に見た、会社設立の設計

ここまでの内容をまとめると、事業計画から会社設立の設計に落ちる数字は三つです。
| 計画で決めること | 会社設立の設計に効くこと | 具体的な数字 |
|---|---|---|
| 事業所を何か所にするか | 資産要件の総額 | 基準資産額2,000万円×事業所数、現金預金1,500万円×事業所数 |
| 何人の派遣スタッフを雇うか | 運転資金と社会保険の事務量 | 給与+事業主負担を、入金までの月数分 |
| いつ営業を始めたいか | 許可申請の時期、そして会社設立の時期 | 事業開始予定のおおむね2〜3か月前までに申請 |
| どの業種に派遣するか | そもそも派遣できるか | 港湾運送・建設・警備・医療関係の一部などは適用除外業務 |
| 誰を派遣元責任者にするか | 組織体制と、講習の日程 | 受理日前3年以内の受講。職務代行者も選任 |
金額や期限は前提条件によって変わります。会社形態・資本金・事業所数・派遣スタッフの人数・決算期が変われば結果も変わります。
この表を上から埋めていくと、資本金をいくらにすればよいかが自然に決まります。逆に、手続きの順で会社設立を進めると、資本金を決める段になって根拠がなく、とりあえず2,000万円という決め方になりがちです。
計画から逆算しておけば、資本金2,000万円で足りるのか、余裕を見て2,300万円にするのか、といった判断ができるようになります。設立費用や事業所の初期費用を資本金から出せば、その分だけ基準資産額は減るからです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|計画から組み立てる設立方法

人材派遣会社の設立方法を、事業計画から組み立てる考え方をまとめます。
- 派遣できる業務かを先に確かめる。 港湾運送・建設・警備・医療関係の一部などは適用除外業務です。日雇い派遣は原則禁止です。
- 事業所の数を決める。 資産要件は事業所数を乗じた額になります。1か所か2か所かで必要額が倍違います。
- 派遣スタッフの人数から運転資金を出す。 給与が先、入金が後。資産要件とは別に用意します。
- 物件は面積だけで選ばない。 面談できる区画、独立性、位置。実地確認があります。
- 派遣元責任者を事業所ごとに置く。 経験の要件と講習。職務代行者も要ります。
- 計画を様式第3号に落とす。 事業計画書は審査の対象になります。
- そこから資本金を決める。 計画から逆算すれば、金額に根拠が生まれます。
会社設立の手続きそのものは定型作業です。時間がかかるのも、判断が要るのも、その前の設計のほうです。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。計画が要件を満たすかどうか、許可が下りるかどうかの判断は所管の都道府県労働局へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、収支計画と税額の判断は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
計画は、許可の審査でも見られます
労働者派遣事業の許可申請では、労働者派遣事業計画書(様式第3号)を提出します。事業の計画は、書類として実際に審査の対象になります。
頭のなかにある構想を数字に落とす作業は、会社設立の前にやっておくほうが楽です。資本金をいくらにするか、事業所を何か所にするかは、この数字から決まってくるからです。
計画の数字が現実的かどうか、資産要件を満たせるかどうかは、所管の都道府県労働局にご相談ください。申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士、収支計画や税額の判断は税理士の領域です。
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