定款と登記事項証明書。人材派遣の会社設立で、この二つが許可申請を左右します
この二つの書類に絞って知りたい方へ
人材派遣の会社設立で必要な書類はたくさんありますが、そのなかで最初に効いてくるのが定款と登記事項証明書です。
この二つは、労働者派遣事業の許可申請の添付書類であると同時に、会社設立の登記そのものの成果物でもあります。つまり、書き直すには登記からやり直すことになります。
この記事は、その二つに絞って詳しく書きます。すでに法人をお持ちで人材派遣に参入したい方にも読んでいただけます。
なぜ、この二つが最初に効いてくるのか

労働者派遣事業の許可申請では、法人の場合、添付書類の先頭に定款(または寄附行為)と登記事項証明書が並びます。厚生労働省の資料でも、この二つが最初に挙げられています。
この二つが最初に効いてくる理由は二つあります。ひとつは、会社設立の登記が完了していなければ用意できないこと。もうひとつは、書かれている内容が許可の判断に使われることです。
- 定款
- 会社の基本的な決めごとを定めた書面。事業目的、商号、本店所在地、資本金の額などが書かれています
- 登記事項証明書
- 法務局が登記の内容を証明する書面。定款の内容のうち登記される事項が反映されています
- 許可申請での役割
- 事業目的から労働者派遣事業を行うことが読み取れるかを確認します。事業所数の確認にも使われます
- 変えるには
- 株主総会の特別決議と変更登記。登録免許税と時間がかかります
人材派遣の会社設立で「事業目的の文言に注意」と繰り返し言われるのは、この構造のためです。定款の認証は通り、登記もできてしまうのに、許可申請の段階で止まることがあるからです。
公証人が定款を認証するときに見るのは、定款の記載が法令に反していないか、記載事項に不備がないかといった点です。労働者派遣事業の許可が取れるかどうかを判断する立場にはありません。法務局が登記を受け付けるときも同じです。役割が違うのです。
労働者派遣事業の許可を判断するのは、所管の都道府県労働局です。会社設立の手続きが通ったことは、許可が下りることを意味しません。この二段構えを理解しておくことが、人材派遣の会社設立では大切になります。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
事業目的に、何をどう書くか

定款の事業目的に人材派遣に関する記載をするとき、いちばん確実なのは「労働者派遣事業」という法律上の名称をそのまま使うことです。
よくある落とし穴が「人材派遣業」とだけ書くことです。日常的にはこちらのほうが通りがよいのですが、法律上の事業の名称は労働者派遣事業です。許可申請の段階で、労働者派遣事業を行うことが読み取れるかを確認されることがあります。
| 書き方 | 定款の認証・登記 | 許可申請での扱い |
|---|---|---|
| 労働者派遣事業 | 通ります | そのまま読み取れます |
| 人材派遣業 | 通ります | 労働者派遣事業と読めるかを確認されることがあります |
| 有料職業紹介事業 | 通ります | 別の制度・別の許可です。派遣もやるなら別に書きます |
| 業務請負 | 通ります | 派遣とは別です。実態が伴わなければ偽装請負の問題になります |
| 前各号に附帯関連する一切の業務 | 通ります | これだけでは労働者派遣事業は読み取れません |
実際の文言は、登記を依頼する司法書士と、所管の都道府県労働局の両方に確認することをおすすめします。
将来やる可能性のある事業を一緒に書いておくかどうかも、会社設立の段階で決めることです。あとから追加するには変更登記が必要になるからです。
ただし、書きすぎると何をしている会社なのか分かりにくくなります。派遣先や金融機関が登記事項証明書を見ることもあるため、当面の3〜5年でやる可能性があるものに絞るのが現実的です。

出典定款認証(日本公証人連合会) (日本公証人連合会/2026年8月27日確認)
定款の認証は、株式会社だけ

株式会社を設立する場合、定款は公証人の認証を受ける必要があります。合同会社では認証が不要です。ここが、会社設立の費用の差になります。
認証手数料は、資本金の額によって変わります。日本公証人連合会の案内によれば、令和4年1月1日から適用されている金額は次のとおりです。
| 資本金の額 | 認証手数料 |
|---|---|
| 100万円未満 | 3万円 |
| 100万円以上300万円未満 | 4万円 |
| 300万円以上 | 5万円 |
令和6年12月1日からは、発起人が全員自然人で3人以下、定款に発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載があり、取締役会を置く旨の記載がない資本金100万円未満の会社について1万5,000円になっています。
人材派遣の会社設立では、許可の資産要件から資本金が2,000万円前後になります。したがって認証手数料は5万円になることがほとんどです。軽減の対象になる資本金100万円未満という水準は、人材派遣ではまず選べません。
認証の際には、実質的支配者となるべき者の申告も必要です。誰が会社を実質的に支配するのかを申告する制度です。詳しくは日本公証人連合会の案内でご確認ください。
出典定款認証(日本公証人連合会) (日本公証人連合会/2026年8月27日確認)
登記事項証明書の取り方と、通数

会社設立の登記が完了すると、登記事項証明書が取れるようになります。法務局の窓口、郵送、オンラインで請求できます。
許可申請では、この登記事項証明書を添付します。厚生労働省の資料によれば、添付書類は正本1通・写し1通で提出することとされています。つまり原本が1通あれば足りることになりますが、実務上は複数通必要になる場面があります。
- 労働者派遣事業の許可申請(正本用)
- 有料職業紹介事業もあわせて申請する場合(そちらの申請用)
- 銀行口座の開設
- 事業所の賃貸借契約
- 社会保険・労働保険の手続き
- 取引先との契約
会社設立の直後は、この種の手続きが一度に来ます。あらかじめ必要な通数を数えて、まとめて取っておくと二度手間になりません。
なお、印鑑証明書も同様です。会社の実印の印鑑証明書は、法務局で取ります。設立時取締役の個人の印鑑証明書は市区町村役場です。取る場所が違うので注意してください。
登記事項証明書には、履歴事項全部証明書・現在事項全部証明書・閉鎖事項証明書といった種類があります。提出先が種類を指定していることがあるため、請求する前に確かめてください。許可申請でどの種類を求められるかは、所管の都道府県労働局の案内でご確認ください。
会社設立の登記が完了したかどうかは、法務局に問い合わせるか、登記事項証明書を請求してみることで分かります。完了予定日は申請時に案内されるのが通例です。人材派遣の会社設立では、この完了日から逆算して許可申請の日程を組むことになります。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
すでに法人がある場合|事業目的を追加する

すでに別の事業をしていて人材派遣に参入する場合、定款の事業目的に労働者派遣事業を追加することになります。手続きは会社設立とは違います。
- 株主総会を開く。 事業目的の変更は定款の変更にあたるため、特別決議が必要です。議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決します。
- 議事録を作成する。 変更登記の添付書類になります。
- 変更登記を申請する。 法務局へ。目的の変更にかかる登録免許税は3万円です。
- 新しい登記事項証明書を取る。 変更後の内容が反映されたものを、許可申請に添付します。
合同会社の場合は、定款の変更に総社員の同意が必要になるのが原則です(定款に別段の定めがある場合を除きます)。手続きの中身が株式会社とは異なります。
なお、定款そのものは会社が保管しているものを写して提出します。定款を変更したのに、会社が保管している定款を書き換えていないというケースがあります。許可申請では変更後の内容が分かる形で提出する必要があるため、原始定款と株主総会議事録をあわせて提出することもあります。取扱いは所管の都道府県労働局にご確認ください。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
事業所を増やすときの、登記との関係

人材派遣で事業所を増やすとき、登記との関係を整理しておきます。ここは混同しやすいところです。
会社法上の支店の設置と、労働者派遣事業の事業所の追加は、別の手続きです。支店を登記しなくても、労働者派遣事業の事業所として届け出ることはできます。逆に、支店を登記しても、労働者派遣事業の事業所として認められるかは別の判断です。
- 支店の設置登記
- 法務局への登記。登録免許税がかかります
- 労働者派遣事業の事業所の追加
- 所管の都道府県労働局への届出。許可証の書換えが必要になる場合があります
- 資産要件への影響
- 事業所が増えれば、基準資産額と自己名義の現金・預金の要件が事業所数を乗じた額になります
- 派遣元責任者
- 事業所ごとに選任が必要です
- 手数料
- 事業所を増やす場合、許可手数料は5万5千円×(事業所数−1)で計算されます
会社設立の段階で複数拠点を計画している場合、資産要件が事業所数の掛け算になる点をまず確かめてください。事業所2か所なら基準資産額4,000万円・自己名義の現金預金3,000万円です。
多くの場合、会社設立のときは事業所1か所で許可を取り、事業が軌道に乗ってから事業所を増やすという順番になります。そのほうが必要な資本金を抑えられるからです。
ただし、事業所を増やすときには増えた事業所数で資産要件を満たす必要があります。1か所で許可を取ったあと2か所目を開設するなら、そのときに基準資産額4,000万円・自己名義の現金預金3,000万円を満たしていなければなりません。事業が伸びて利益が積み上がってから、という順番になるのが自然です。

出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
文言で止まったときに、実際に何が起きるか

事業目的の文言で許可申請が止まったとき、何が起きるのかを具体的に書いておきます。

この図で見ていただきたいのは、いちばん下の行です。変更登記そのものの費用は3万円ですが、それによって1か月遅れれば、家賃と役員報酬でその何倍もの金額が出ていきます。
人材派遣は許可が下りるまで営業ができない事業です。手戻りの分だけ、収入のない期間が延びます。会社設立の前に文言を確かめておく意味は、ここにあります。
確かめる方法は簡単です。所管の都道府県労働局の需給調整事業担当部門に、この文言で問題ないかを聞くことです。相談は登記より前にできますし、費用もかかりません。
会社設立を司法書士に依頼する場合も、労働者派遣事業の許可を取る予定であることを最初に伝えてください。伝えておけば、事業目的の文言についても配慮した案を出してもらえます。伝えていなければ、一般的な会社設立の文言で進んでしまうことがあります。
人材派遣の会社設立は、登記と許可という二つの手続きが連なっています。それぞれの専門家に別々に依頼する場合、この連なりを誰が意識するのかが抜けやすくなります。依頼するときに「派遣の許可を取ります」と一言伝えるだけで、防げる手戻りがあります。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|定款と登記事項証明書で押さえること

人材派遣の会社設立における、定款と登記事項証明書についてまとめます。
- この二つは許可申請の添付書類の先頭。 会社設立の登記が完了していなければ用意できません。
- 事業目的は「労働者派遣事業」と書く。 「人材派遣業」だけでは確認を求められることがあります。
- 人材紹介もやるなら、別に書く。 有料職業紹介事業は別の制度・別の許可です。
- 定款の認証は株式会社だけ。 人材派遣では資本金から手数料は5万円になることがほとんどです。
- 登記事項証明書は通数を数えてまとめて取る。 会社設立の直後は手続きが一度に来ます。
- 既存法人なら事業目的の追加。 特別決議と変更登記。登録免許税3万円。
- 事業所を増やすと資産要件も倍。 支店の登記と、派遣の事業所の届出は別の手続きです。
- 文言は登記の前に労働局へ確かめる。 相談は無料で、やり直しの登記は有料です。
定款と登記事項証明書は、書き直すのに登記が要る書類です。会社設立の前に時間をかける価値があります。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省・法務局・日本公証人連合会の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。事業目的の文言が許可申請で読み取れるかどうかは所管の都道府県労働局へ、登記の手続きは司法書士へ、許可申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へご確認ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典人材派遣・職業紹介を行う皆さまへ (厚生労働省/2026年8月27日確認)
文言は、登記の前に確かめてください
定款の事業目的は、会社設立の登記に入り、登記事項証明書に載ります。あとから変えるには株主総会の特別決議と変更登記が必要で、登録免許税がかかります。
そして人材派遣は、許可が下りるまで営業できません。変更登記で1か月遅れれば、その分だけ無収入期間が延びます。
文言が許可申請で読み取れるかどうかは、所管の都道府県労働局に確認できます。登記の手続きは司法書士に、許可申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士にご相談ください。
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