基準資産額2,000万円から、会社設立の資本金をいくらにするか逆算する
資本金の額を決める方へ
人材派遣の会社設立で、資本金をいくらにするかを決めようとしている方に向けた記事です。
一般的な会社設立では、資本金は事業計画から決めます。人材派遣では、労働者派遣事業の許可の資産要件という外側の条件が先に来ます。
この記事では、基準資産額2,000万円から逆算する考え方を、具体的な項目を積み上げながら整理します。
逆算の起点は、資産要件の三つ

人材派遣の会社設立で資本金を決めるとき、起点になるのは労働者派遣事業の許可の資産要件です。
事業所1か所であれば、次の三つを同時に満たす必要があります。
- 基準資産額
- 資産(繰延資産及び営業権を除く)の総額から負債の総額を控除した額が2,000万円以上
- 自己名義の現金・預金
- 事業資金として1,500万円以上
- 負債比率
- 基準資産額が、負債の総額の7分の1以上
そして、借入では基準資産額は増えません。基準資産額は資産の総額から負債の総額を控除した額だからです。資本金として入れる必要があります。
会社設立の直後であれば、資本金の額がそのまま基準資産額に近い額になります。だから資本金を2,000万円以上にする、というのが出発点です。
ここまでは、多くの記事に書かれていることです。この記事では、そこから先を扱います。2,000万円に何をいくら上乗せするか、という話です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
上乗せその1|会社設立と許可申請の法定費用

最初の上乗せが、会社設立と許可申請の法定費用です。これらを資本金から支払えば、その分だけ基準資産額が減ります。

合計でおよそ41万5千円です。合同会社を選べば、定款認証手数料5万円が不要になり、登録免許税も資本金2,000万円なら14万円になるため、6万円ほど安くなります。
専門家に依頼する場合は、その報酬が加わります。司法書士に会社設立の登記を依頼し、社会保険労務士に許可申請の書類作成を依頼すれば、それぞれの報酬がかかります。金額は事務所によって異なるため、見積もりでご確認ください。
なお、これらの費用を資本金から支払わず、代表者が立て替えるという形も考えられます。その場合は役員借入金という負債になり、基準資産額の計算では控除されます。結局のところ、どこから出しても基準資産額は減るということです。
人材派遣の会社設立では、この点を踏まえて資本金に余裕を持たせるのが確実です。あとから増資をするより、最初から多めに入れておくほうが手続きの手間もかかりません。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
上乗せその2|開業準備の費用

二つ目の上乗せが開業準備の費用です。ここは会社によって金額の幅が最も大きくなります。
人材派遣に固有の項目としては、事業所の要件を満たすための費用があります。事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あり、派遣スタッフと面談できる、個人的な秘密を保持できる場所が要ります。
- 事業所の敷金・礼金・仲介手数料・前家賃
- 面談スペースをつくるためのパーテーションなど
- 鍵のかかるキャビネット(個人情報の管理に関する措置)
- 机・椅子・パソコン・電話・複合機
- 派遣元責任者講習の受講料
- 会社の実印・銀行印・角印の作成
- ホームページの制作(マージン率などの情報提供にも使います)
このうち、鍵のかかるキャビネットとホームページは、人材派遣ならではの項目です。前者は個人情報適正管理規程で求められる措置に関わり、後者はマージン率などの情報提供義務に関わります。
金額は物件と規模によって変わります。都市部の小規模オフィスであれば、敷金・礼金・仲介手数料だけで数十万円になることもあります。
会社設立の資本金を決めるとき、この開業準備の費用を見積もっておいてください。資本金から支払えば、その分だけ基準資産額と現金・預金が減ります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
上乗せその3|営業できない期間の固定費

三つ目の上乗せが、営業できない期間の固定費です。実務でいちばん重くなるのが、この項目です。
人材派遣は、労働者派遣事業の許可が下りるまで営業ができません。厚生労働省は、許可申請を事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までに行う必要があるとしています。会社設立の準備期間も含めれば、営業開始まで3〜4か月です。
そして許可が下りて営業を始めても、派遣先との契約、派遣スタッフの就業、月末の締め、請求という順を踏むため、最初の入金までさらに1〜2か月かかります。

上の例で、無収入期間を5か月と見れば、小さく始める場合で225万円、人を雇う場合で500万円になります。会社設立の登記費用や許可申請の費用より、はるかに大きい金額です。
人材派遣の会社設立で資金が重いと言われるとき、実際に重いのはこの部分です。資産要件の2,000万円は置いておくお金ですが、この固定費は出ていくお金だからです。
この期間を短くする方法はあります。会社設立の登記より前に所管の都道府県労働局へ相談し、要件を満たせるかを確かめておくこと。派遣元責任者講習に早めに申し込むこと。就業規則や個人情報適正管理規程、教育訓練計画といった自作の書類に早く着手すること。
いずれもお金をかけずにできる工夫です。審査の期間は自分では短縮できませんが、そこに至るまでの準備期間は縮められます。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
三つを積み上げると、いくらになるか

三つの上乗せを積み上げて、資本金の目安を出してみます。前提を置いた計算例です。
| 項目 | 金額(前提を置いた例) |
|---|---|
| 基準資産額の要件 | 2,000万円 |
| 会社設立と許可申請の法定費用 | 41万5千円 |
| 開業準備の費用 | 80万円 |
| 営業できない期間の固定費(月45万円×5か月) | 225万円 |
| 合計 | 2,346万5千円 |
※ 前提を置いた例です。会社形態・資本金・事業所数・派遣労働者の人数・決算期が変われば結果も変わります。
この計算では、資本金の目安はおよそ2,350万円になります。切りのよい数字にするなら2,400万円といったところです。
ここで確かめておきたいのが、株式会社の設立登記の登録免許税です。資本金の額の1000分の7で、15万円に満たないときは15万円と定められています。資本金2,400万円なら1000分の7で16万8千円となり、最低額の15万円を超えます。
株式会社で登録免許税が最低額のまま収まるのは、資本金がおよそ2,143万円までです。それを超えると、資本金に比例して増えていきます。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
運転資金は、さらに別に必要です

ここまでの計算には、まだ入っていないものがあります。派遣スタッフの給与を立て替える運転資金です。
人材派遣は、派遣スタッフへの給与が先で、派遣先からの入金が後という順番でできています。月末で締めて給与を支払い、派遣先に請求して、翌月末または翌々月末に入金されます。
この間、派遣スタッフの給与と社会保険料の事業主負担は、会社が立て替えている形になります。派遣スタッフが増えれば、立て替える金額も増えます。

この金額に人数を掛けたものを、入金までの1〜2か月分持っている必要があります。10人なら、おおよそ600万円から1,200万円という規模になります。
会社設立の資本金にこの分まで含めるかどうかは、考え方が分かれます。含めれば安全ですが、資本金が大きくなり、登録免許税と法人住民税の均等割も増えます。
含めない場合は、別に運転資金を用意することになります。ただし借入で用意すれば負債が増え、基準資産額と負債比率に影響します。この兼ね合いを、事業計画に沿って設計してください。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
資本金を増やすと、増えるもの

資本金を多めにすることには利点がありますが、増えるものもあります。会社設立の前に確かめておいてください。
| 項目 | 資本金を増やすと |
|---|---|
| 設立登記の登録免許税 | 資本金の1000分の7。株式会社は15万円、合同会社は6万円が最低額 |
| 法人住民税の均等割 | 資本金等の額の区分が上がれば高くなります。赤字でもかかります |
| 消費税の納税義務 | 資本金1,000万円以上の新設法人は、設立初年度から課税事業者になります |
| 外形標準課税 | 資本金1億円超の法人が対象です。人材派遣の会社設立で通常ここまでは行きません |
税務上の取扱いは制度改正で変わります。具体的な判断は税理士にご確認ください。
三つ目の消費税は、人材派遣の会社設立では避けられません。資産要件から資本金が1,000万円以上になるからです。設立初年度から課税事業者になります。
一つ目については、株式会社なら資本金2,143万円あたりまで最低額の15万円で変わりません。この範囲であれば、上乗せのコストは実質的にかかりません。
二つ目の均等割は、資本金等の額の区分で決まります。金額は自治体によって異なるため、所在地の自治体の案内でご確認ください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月27日確認)
3年後の更新まで見て決める

資本金の額を決めるとき、会社設立の時点だけを見ていると足りません。3年後の許可の更新まで見ておく必要があります。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年です。更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までに行う必要があり、申請日の超過は認められません。そして更新の審査でも、資産要件は確かめられます。
つまり、会社設立から3年のあいだの累積損益が、そのまま基準資産額に反映されます。赤字が続けば目減りし、更新でつまずくことになります。
会社設立の初年度は、営業を始めるまでの期間も含めて赤字になりやすい時期です。その赤字が基準資産額を削っていけば、3年後の更新に響きます。
資本金を多めにしておくことには、この意味もあります。初年度に赤字が出ても、要件を割り込むまでに余裕があるからです。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|資本金の逆算

基準資産額2,000万円から資本金を逆算する考え方を、まとめます。
- 起点は資産要件。 基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円・負債比率7分の1以上(事業所1か所)。
- 上乗せ1:法定費用。 会社設立と許可申請でおよそ41万5千円(株式会社・電子定款の場合)。
- 上乗せ2:開業準備の費用。 事業所の初期費用、備品、講習の受講料。事業所の要件に関わる部分は削れません。
- 上乗せ3:営業できない期間の固定費。 会社設立から入金まで5〜6か月分。いちばん重い項目です。
- 運転資金はさらに別。 派遣スタッフの給与を立て替える分です。
- 資本金を増やすと増えるもの。 登録免許税、法人住民税の均等割。株式会社は2,143万円あたりまで最低額です。
- 3年後の更新まで見る。 赤字が続けば目減りします。余裕を持たせる意味はここにあります。
資本金の額は会社設立の登記に入ります。あとから変えるには増資の手続きと変更登記が必要です。決めるときに時間をかける価値のある項目です。
この記事の金額は2026年8月27日時点で、厚生労働省・法務局・日本公証人連合会・国税庁・総務省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。資本金の額の設計は税理士へ、資産要件を満たすかどうかの判定は所管の都道府県労働局へ、登記は司法書士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
決めた根拠を、書き残しておいてください
資本金の額は、会社設立の登記に入ります。あとから変えるには増資の手続きと変更登記が必要で、費用も時間もかかります。
そして3年後、許可の更新のときにもう一度この数字と向き合うことになります。なぜこの額にしたのかを書き残しておくと、そのときの判断が楽になります。
資本金の額の設計は税理士に、資産要件を満たすかどうかの判定は所管の都道府県労働局に、登記は司法書士にご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?