人材派遣の会社設立で、株式会社の役員と機関設計をどう決めるか
機関設計を決めようとしている方へ
人材派遣の会社設立で株式会社を選び、取締役を何人にするかを決めようとしている方に向けた記事です。
機関設計は会社法の話ですが、人材派遣では労働者派遣事業の許可申請にも影響します。役員全員の住民票と履歴書が必要になり、欠格事由の確認も行われるからです。
この記事では、会社法の観点と許可の観点を並べて、機関設計の決め方を整理します。
株式会社の機関設計は、どこまで自由に決められるか

株式会社の会社設立では、機関設計を選べます。取締役を何人にするか、取締役会を置くか、監査役を置くか。会社法にはいくつかの組み合わせが用意されています。
人材派遣の会社設立で選ばれることが多いのは、いちばん簡素な形です。取締役1名、取締役会なし、監査役なし。この形であれば、手続きも登記の内容も軽くなります。
- 取締役1名・取締役会なし
- いちばん簡素な形。人材派遣の会社設立でよく選ばれます
- 取締役3名以上・取締役会あり
- 取締役会を置く場合、取締役は3名以上、監査役も原則として必要になります
- 監査役
- 取締役会を置かない場合、置くかどうかは任意です
- 役員の任期
- 取締役は原則2年、監査役は原則4年。非公開会社では定款で最長10年まで伸ばせます
- 重任の登記
- 任期満了のたびに必要です。登録免許税がかかります
四つ目と五つ目に注目してください。株式会社では役員に任期があり、任期が満了するたびに重任の登記が必要になります。非公開会社(株式の譲渡制限がある会社)では、定款で任期を最長10年まで伸ばせます。
人材派遣の会社設立では、この任期を10年にしておくと重任登記の回数を減らせます。ただし、役員を交代させたい場合には任期途中での手続きが必要になるため、一長一短です。
会社設立の段階では、簡素な形から始めて、必要になったときに変更するという考え方が現実的です。機関設計の変更は定款変更と登記で行えます。
株式に譲渡制限を付けておくと、株式が知らないうちに第三者に渡ることを防げます。人材派遣の会社設立では、許可の欠格事由が役員に及ぶことを考えると、会社の支配関係を管理しやすい形にしておく意味があります。
譲渡制限の定めは定款に書き、登記事項にもなります。会社設立の段階で決めておく項目のひとつです。司法書士に依頼する場合は、この点も相談しておいてください。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
役員が増えると、許可申請の書類が増えます

労働者派遣事業の許可申請では、法人の場合、役員の住民票の写しと履歴書を提出します。役員が多ければ、その分だけ書類が増えます。
住民票の写しには条件があります。本籍地の記載があり、個人番号の記載がないものです。窓口で請求するときに、この二つを指定する必要があります。
加えて、精神の機能の障害により認知、判断又は意思疎通を適切に行うことができないおそれがある場合には、医師の診断書の提出が求められます。

そして、許可の欠格事由は法人の役員についても及びます。役員のなかに欠格事由に該当する人がいれば、法人として許可を受けられません。会社設立の段階で役員を迎えるときは、この点を確かめておく必要があります。
欠格事由は労働者派遣法第6条に定められています。禁錮以上の刑に処せられた場合や、一定の法令違反により罰金の刑に処せられた場合などが含まれます。詳しくは条文または所管の都道府県労働局でご確認ください。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
派遣元責任者は、役員が兼ねることもできます

労働者派遣事業の許可には、事業所ごとに派遣元責任者を選任することが求められます。この派遣元責任者を、役員が兼ねることもできます。
厚生労働省の許可基準は、派遣元責任者の要件として、成年に達した後3年以上の雇用管理の経験を有する者などを挙げています。そして、この「雇用管理の経験」には、事業主(法人の場合はその役員)であったことも含まれるとされています。
人材派遣の会社設立で代表取締役が派遣元責任者を兼ねるという形は、よく選ばれます。ただし、その人が要件を満たしている必要があります。
- 未成年者でなく、欠格事由のいずれにも該当しないこと
- 成年に達した後、3年以上の雇用管理の経験を有する者であること
- 住所及び居所が一定しない等、生活根拠が不安定な者でないこと
- 適正な雇用管理を行う上で支障がない健康状態であること
- 派遣元責任者講習を、許可の申請の受理の日前3年以内に受講した者であること
- 派遣元責任者が苦情処理等の場合に、日帰りで往復できる地域に労働者派遣を行うものであること
なお、許可申請の書類について、派遣元責任者と役員が同一である場合には、医師の診断書の提出を要しないとされている場面があります。詳しくは所管の都道府県労働局にご確認ください。
会社設立の段階で、誰が派遣元責任者になるかを決めておいてください。その人の講習の受講も、会社設立の準備と並行して進めることになります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
職務代行者は、役員である必要はありません

労働者派遣事業の許可基準は、派遣元責任者が不在の場合の臨時の職務代行者をあらかじめ選任しておくことを求めています。
この職務代行者は、役員である必要はありません。従業員から選任することもできます。人材派遣の会社設立で機関設計を考えるとき、この点は選択肢を広げます。

この図の右下に注意してください。職務代行者は「あらかじめ選任されていること」が求められます。許可が下りてから決めればよい、というものではありません。
つまり、人材派遣の会社設立では、許可申請の時点で最低二人が必要になります。派遣元責任者と、その職務代行者です。取締役1名という機関設計を選んでも、この二人は要ります。
職務代行者に求められる具体的な要件については、所管の都道府県労働局にご確認ください。派遣元責任者と同じ経験の要件が必要かどうかは、確かめておく価値があります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
役員報酬の設計と、基準資産額の維持

役員を決めたら、次は役員報酬です。人材派遣の会社設立では、この設計に固有の観点が入ります。
一般的な会社設立では、役員報酬は法人税と所得税・社会保険料のバランスで決めます。役員報酬を増やせば法人の利益が減って法人税が下がり、代わりに個人の所得税と社会保険料が増えるという関係です。
人材派遣では、ここに三つ目の軸が加わります。労働者派遣事業の許可の更新に向けて、基準資産額を維持できるかという軸です。
許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までに行う必要があり、更新の審査でも資産要件は確かめられます。
役員報酬を高く設定すれば、その分だけ法人の利益が減り、基準資産額の積み上がりが遅くなります。会社設立から3年のあいだに赤字が続けば、基準資産額は目減りしていきます。
会社設立の初年度は、事業の見通しが立ちません。人材派遣では許可が下りるまで売上がゼロなので、なおさらです。初年度の役員報酬を抑えめにして、許可が下りて事業が回り始めてから調整するという考え方もあります。
この設計は税理士と相談しながら決めてください。税額の判断は税理士の業務です。
なお、役員報酬を出せば社会保険の被保険者になります。法人は原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になるため、役員一人の会社設立でも加入の手続きが必要です。保険料の事業主負担も発生します。
人材派遣の会社設立では、派遣スタッフの社会保険料の事業主負担に加えて、役員と内勤の従業員の分もかかります。会社設立の資金計画では、この合計を見込んでおいてください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月27日確認)
役員の任期と、重任登記の手間

株式会社の役員には任期があります。取締役は原則2年、監査役は原則4年です。株式の譲渡制限がある非公開会社では、定款で最長10年まで伸ばせます。
任期が満了すると、同じ人が続ける場合でも重任の登記が必要になります。登録免許税がかかり、司法書士に依頼すればその報酬も加わります。
| 任期の設定 | 重任登記の頻度 | 10年間の回数(取締役1名の場合) |
|---|---|---|
| 2年(原則) | 2年ごと | 5回 |
| 5年 | 5年ごと | 2回 |
| 10年(最長) | 10年ごと | 1回 |
登録免許税の額は資本金の額によって変わります。具体的な額は法務局・司法書士にご確認ください。
人材派遣の会社設立では、任期を長く設定して重任登記の回数を減らすという考え方があります。事務の負担が軽くなるからです。
一方で、任期が長いと役員を交代させたいときに手続きが必要になります。任期途中で解任すれば、損害賠償の問題が生じることもあります。共同で会社設立をする場合は、この点も考えて決めてください。
なお、重任登記を忘れて放置すると、過料の対象になることがあります。会社設立の段階で任期を決めたら、次の満了時期を書き留めておいてください。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
会社設立のあとで機関設計を変えるとき

会社設立のあとで機関設計を変えることもできます。取締役を増やす、取締役会を設置する、監査役を置くといった変更です。
いずれも定款の変更(株主総会の特別決議)と変更登記が必要になります。登録免許税がかかります。
- 取締役の増員:株主総会の決議と変更登記
- 取締役会の設置:定款変更と変更登記。取締役3名以上、監査役の設置も原則として必要になります
- 監査役の設置:定款変更と変更登記
- 役員の変更:株主総会の決議と変更登記
人材派遣で許可を受けている場合、役員が変わったときには労働局への手続きも必要になります。許可申請では役員の住民票と履歴書を提出しているため、その内容が変わるからです。
具体的にどういう手続きが必要かは、所管の都道府県労働局にご確認ください。変更の届出が必要な事項は、法令と業務取扱要領に定められています。
会社設立の段階では、簡素な機関設計から始めて、事業の成長にあわせて変更するというのが現実的です。ただし、変更のたびに登記と労働局への手続きが発生することは覚えておいてください。
人材派遣で事業所を増やす場合も、同じように手続きが必要になります。事業所を増やせば、基準資産額と自己名義の現金・預金の要件が事業所数を乗じた額になり、派遣元責任者も事業所ごとに必要になります。
会社設立のときに複数拠点を計画していても、まずは事業所1か所で許可を取り、事業が軌道に乗ってから増やすという順番が現実的です。そのほうが必要な資本金を抑えられるからです。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
まとめ|株式会社の役員と機関設計の決め方

人材派遣の会社設立で株式会社を選んだ場合の、役員と機関設計についてまとめます。
- 取締役1名から始められる。 取締役会なし、監査役なしという簡素な形が選ばれることが多くなります。
- 役員が増えれば許可申請の書類も増える。 全員分の住民票(本籍地あり・個人番号なし)と履歴書が必要です。
- 欠格事由は役員に及ぶ。 該当者がいれば法人として許可を受けられません。
- 派遣元責任者は役員が兼ねられる。 経験の要件と講習の受講が必要です。
- 職務代行者は役員でなくてもよい。 ただし許可申請の時点であらかじめ選任されている必要があります。
- 役員報酬は基準資産額の維持にも関わる。 更新のたびに資産要件を確かめられます。
- 任期は定款で最長10年まで。 重任登記の回数を減らせます。
人材派遣の会社設立では、機関設計を最初から複雑にする必要はありません。取締役1名から始めて、必要になったときに増やすという形で足ります。
ただし、労働者派遣事業の許可には職務代行者の選任が求められます。取締役が1名でも、実質的にもう一人が必要になる点は押さえておいてください。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省・法務局・国税庁の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。登記と機関設計は司法書士へ、許可の要件は所管の都道府県労働局へ、役員報酬の設計は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
小さく始めて、必要になったら足す
人材派遣の会社設立では、機関設計を最初から複雑にする必要はありません。取締役1名から始めて、必要になったときに増やすという形で足ります。
ただし、労働者派遣事業の許可には職務代行者の選任が求められます。取締役が1名でも、実質的にもう一人が必要になる点は押さえておいてください。
登記と機関設計は司法書士へ、許可の要件は所管の都道府県労働局へ、役員報酬の設計は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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