人材派遣を株式会社で始める。定款認証から許可申請までの手順と費用
株式会社での会社設立を進める方へ
人材派遣を株式会社で始めようとしている方に向けた記事です。
株式会社の設立手続きそのものは、どの業種でも同じです。人材派遣に固有なのは、定款の事業目的の文言と、資本金の額を労働者派遣事業の許可の資産要件から逆算することの二つです。
この記事では、一般的な株式会社の設立手順に、人材派遣の要件を重ねて説明します。
株式会社を選ぶ理由と、人材派遣での意味

人材派遣の会社設立で株式会社を選ぶ理由は、費用ではありません。費用だけで見れば合同会社のほうが安く済みます。株式会社を選ぶのは、会社の仕組みと将来の選択肢のためです。
- 出資と経営を分けられる株主が経営に直接関わらないという形が取れます。将来、出資を受ける場合に扱いやすくなります。
- 株式の譲渡で持分を整理できる共同で会社設立をしたあと、方向性が分かれたときに整理しやすくなります。
- 対外的な認知度派遣先の与信審査や、派遣スタッフの採用で影響することがあります。
- 資金調達の選択肢株式の発行で資金を集めるという方法が使えます。
人材派遣という事業の性質を考えると、三つ目が効いてくる場面があります。派遣先の企業と継続的に取引をし、派遣スタッフを継続的に採用する事業だからです。
ただし、労働者派遣事業の許可を受けていること自体が、公的な信用の裏づけになります。許可には基準資産額2,000万円という資産要件があり、それを満たしていることが確認されているからです。会社形態だけで判断されるわけではありません。
そして、許可の要件は会社形態で変わりません。基準資産額も、自己名義の現金・預金も、事業所の面積も、派遣元責任者の要件も同じです。株式会社を選んでも、人材派遣を始めるハードルは下がりません。
会社設立の費用でいえば、株式会社と合同会社の差は資本金2,000万円のときでおよそ6万円です。定款認証手数料5万円と登録免許税1万円の合計です。会社設立にかかる金額全体から見れば、大きな差ではありません。
むしろ人材派遣の会社設立で重いのは、置いておく基準資産額2,000万円と、営業できない期間の固定費です。会社形態の選択は、この二つを確かめたあとの話になります。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
第1段階|基本事項を決める

株式会社の設立で最初に決めるのは、定款に書く基本事項です。人材派遣では、このうち二つが労働者派遣事業の許可に直結します。
| 項目 | 決め方 | 人材派遣での注意点 |
|---|---|---|
| 商号 | 自由に決められます | 同一本店所在地に同一商号があると登記できません |
| 本店所在地 | 自由に決められます | 事業所として使うなら面積などの要件を満たす必要があります |
| 事業目的 | 自由に決められます | 労働者派遣事業を行うことが読み取れる文言を入れます |
| 資本金の額 | 自由に決められます | 基準資産額2,000万円以上から逆算します(事業所1か所) |
| 事業年度 | 自由に決められます | 許可申請で出す決算書の時期、3年後の更新から逆算します |
| 機関設計 | 取締役1名でも可 | 役員全員の住民票と履歴書が許可申請で必要になります |
| 発起人 | 1名でも可 | 出資する人。役員を兼ねることもできます |
どの項目も定款に書き、登記事項になるものもあります。変更には手続きと費用がかかります。
太字にした三つが、人材派遣に固有の注意点です。本店所在地、事業目的、資本金の額。いずれも登記に入る事項で、あとから変えるには変更登記が必要になります。
特に資本金の額は、労働者派遣事業の許可の資産要件から逆算する必要があります。事業所1か所であれば、基準資産額2,000万円以上・自己名義の現金預金1,500万円以上・基準資産額が負債の総額の7分の1以上という三つを同時に満たすことになります。
そして、借入では基準資産額は増えません。基準資産額は資産の総額から負債の総額を控除した額だからです。資本金として入れる必要があります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第2段階|定款を作成し、認証を受ける

基本事項が決まったら、定款を作成します。株式会社の定款は、公証人の認証を受ける必要があります。合同会社では不要な手続きです。
定款には絶対的記載事項があります。目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所です。これらが書かれていなければ定款は無効になります。
人材派遣で注意が要るのは、このうち「目的」です。事業目的に労働者派遣事業を行うことが読み取れる文言を入れておかないと、労働者派遣事業の許可申請の段階で確認を求められることがあります。
- 認証を受ける場所
- 本店所在地を管轄する法務局・地方法務局に所属する公証人の役場
- 認証手数料
- 資本金100万円未満3万円/100万円以上300万円未満4万円/その他5万円。人材派遣では5万円になることがほとんどです
- 収入印紙
- 紙の定款には4万円。電子定款なら不要です
- 実質的支配者の申告
- 認証の際に、実質的支配者となるべき者について申告する制度があります
- 謄本の交付
- 認証を受けた定款の謄本の交付を受けます。手数料がかかります
認証の手続きは、事前に公証役場と内容を調整してから行うのが通例です。定款の案を送って確認を受け、問題がなければ日程を決めて出向く、という流れになります。
なお、公証人が確認するのは定款の記載が法令に反していないかといった点です。労働者派遣事業の許可が取れるかどうかを判断する立場にはありません。事業目的の文言については、所管の都道府県労働局にも確かめておいてください。
出典定款認証(日本公証人連合会) (日本公証人連合会/2026年8月27日確認)
第3段階|資本金を払い込み、登記を申請する

定款の認証を受けたら、資本金を払い込みます。発起人の個人口座に払い込み、通帳の写しなどで証明します。
そのうえで、設立登記を申請します。人材派遣の会社設立で必要な主な書類を並べます。
- 設立登記申請書
- 認証を受けた定款
- 発起人の決定書(本店所在地の決定など)
- 設立時取締役の就任承諾書
- 設立時取締役の印鑑証明書
- 資本金の払込みがあったことを証する書面
- 印鑑届書
- 登録免許税分の収入印紙を貼付した台紙
設立登記の登録免許税は、資本金の額の1000分の7で、15万円に満たないときは15万円です。人材派遣の会社設立では資本金が2,000万円前後になるため、1000分の7で計算すると14万円となり、最低額の15万円が適用されます。
計算上、株式会社で登録免許税が15万円を超えるのは資本金がおよそ2,143万円を超えたときです。つまり、資本金を2,000万円から2,100万円に増やしても、登録免許税は15万円のままです。人材派遣の会社設立で資本金に余裕を持たせやすいのは、この構造のおかげでもあります。
登記が完了したら、登記事項証明書と法人の印鑑証明書を取ります。これらは労働者派遣事業の許可申請の添付書類になるため、必要な通数を確かめてからまとめて取ってください。
なお、会社設立の登記が完了した時点で、法人は原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。役員報酬を出すかどうかにかかわらず、年金事務所への新規適用の届出が必要です。
会社設立の直後は、許可申請の準備に加えて、こうした保険と税務の手続きが一度に来ます。誰がどれを担当するのかを先に決めておくと、抜けが減ります。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
第4段階|登記の裏で、許可申請の準備をする

登記の申請から完了までの待ち時間を、許可申請の準備に充てます。人材派遣の会社設立では、この段階で時間がかかります。
時間がかかるのは、自分で中身を作る書類です。就業規則、個人情報適正管理規程、教育訓練計画、そしてキャリア形成を念頭においた派遣先の提供のための事務手引等です。

このなかで、派遣元責任者講習は特に早めに手をつけてください。日程が埋まることがあり、受講できる日が1か月先になれば、その分だけ許可申請が後ろにずれます。
そして、就業規則については社会保険労務士に相談しておくことをおすすめします。許可の基準が求める内容は人材派遣に固有のもので、他業種の会社設立で使う書式をそのまま使えないからです。
会社設立の準備でこの三つの書類に早く着手できるかどうかが、許可申請までの期間を決めます。役所で取る書類は申請すれば出てきますが、自作の書類は考える時間が必要だからです。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第5段階|労働者派遣事業の許可を申請する

登記事項証明書がそろったら、労働者派遣事業の許可申請です。申請は事業主単位(会社単位)で行い、事業主の主たる事務所を管轄する都道府県労働局に提出します。
提出する書類の中心は、労働者派遣事業許可申請書(様式第1号)と労働者派遣事業計画書(様式第3号、様式第3号-2、様式第3号-3)です。申請書と計画書は正本1通・写し2通、添付書類は正本1通・写し1通で提出します。
そして手数料です。許可手数料として12万円+5万5千円×(事業所数−1)に相当する額の収入印紙を貼付し、登録免許税として許可1件あたり9万円を納付します。事業所1か所なら合計21万円です。

合計でおよそ41万5千円です。ここに事業所の初期費用、備品、講習の受講料、専門家に依頼する場合の報酬が加わります。
この41万5千円という金額は、会社設立にかかる法定費用としては小さくありません。ただし、置いておく必要のある基準資産額2,000万円と比べれば、桁が二つ違います。人材派遣の会社設立で費用を考えるときは、この比率を頭に入れておいてください。
そして、会社設立と許可申請の両方で登録免許税という名前の税金がかかります。設立登記の15万円と、許可の9万円です。同じ名前ですが別のもので、それぞれ根拠となる法令も違います。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第6段階|審査と実地確認、そして許可

申請が受理されると審査に入ります。書類の審査に加えて、事業所の実地確認が行われます。
確認されるのは、事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あること、その位置・設備等からみて労働者派遣事業を行うのに適切であること、風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないことなどです。
この面積には、派遣元責任者が仕事をする場所だけでなく、派遣スタッフと面談やキャリアコンサルティングを行うための、個人的な秘密を保持できる場所の分が含まれます。
審査を経て許可が下りると、許可証が交付されます。厚生労働省の業務取扱要領によれば、労働局は許可証を交付する際に、労働者派遣事業制度の適正な運営、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分などについての講習を実施することとされています。
ここでようやく、人材派遣の営業ができるようになります。株式会社の設立登記が終わってから、2〜3か月が経っています。
会社設立の準備を始めてから数えれば、3〜4か月です。そして営業を始めても、派遣先との契約、派遣スタッフの就業、月末の締め、請求という順を踏むため、最初の入金までさらに1〜2か月かかります。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|株式会社で人材派遣を始める手順

人材派遣を株式会社で始めるときの手順を、まとめます。

株式会社の設立手続きそのものは、どの業種でも同じです。人材派遣に固有なのは、事業目的の文言と資本金の額、そして登記のあとに許可申請という二段目があることです。
会社設立の登記を出発点だと思っていると、そのあとの審査期間が想定外の負担になります。登記は途中の工程だと考えて、資金計画を立ててください。
この記事の金額は2026年8月27日時点で、厚生労働省・法務局・日本公証人連合会・国税庁の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。許可の可否は所管の都道府県労働局へ、登記は司法書士へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、役員報酬や決算期の設計は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
登記は途中の工程です
株式会社の設立手続きが終わっても、人材派遣の営業はまだできません。労働者派遣事業の許可という二段目があるからです。
会社設立の登記を出発点だと思っていると、そのあとの2〜3か月の審査期間が想定外の負担になります。登記は途中の工程だと考えて、資金計画を立ててください。
許可の可否は所管の都道府県労働局へ、登記は司法書士へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、役員報酬や決算期の設計は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?