人材派遣で会社設立をする前に。許可が下りる条件と、下りない条件を並べて確かめる
この記事は、こういう方に向けて書いています
これから人材派遣で会社設立をしようと考えていて、法人をつくる手続きと労働者派遣事業の許可申請を、どちらから手をつければよいのか分からない方。
すでに別の事業をしていて人材派遣に参入したいものの、自社の決算書で許可の資産要件を満たせるのかを先に確かめたい経営者の方。
逆に、この記事は「要件を満たさないまま許可を取る方法」を探している方には向きません。結論は一貫して、要件を満たしてから申請する、判断に迷うところは所管の都道府県労働局に相談する、というところに置いています。
人材派遣の会社設立は、なぜ二段構えになるのか

飲食店や小売店であれば、会社設立の登記が終わればその日から営業できます。ところが人材派遣はそうはいきません。法人をつくったうえで、さらに労働者派遣事業の許可を受けなければ、人材派遣の営業を始められないからです。
これは、労働者派遣が「雇う人」と「指揮命令する人」が分かれる働き方だからです。派遣スタッフの雇用管理が適正に行われるかどうかを国が事前に確かめる仕組みになっており、その入口が許可制です。つまり人材派遣の会社設立は、登記という一段目と、許可という二段目を順に越えていく作業になります。
- 一段目:会社設立定款をつくり、資本金を払い込み、法務局で登記する。ここまでは他の業種と同じ手順です。
- 二段目:許可申請登記事項証明書と直近の決算書を添えて、都道府県労働局に労働者派遣事業の許可を申請します。
- 営業できるのは二段目のあと許可証が交付されるまで、人材派遣としての営業活動はできません。ここが資金繰りの山になります。
しかも二段目の審査では、一段目で決めた資本金の額がそのまま資産要件の判定材料になります。会社設立の設計と許可の要件は、切り離して考えられません。

出典人材派遣・職業紹介を行う皆さまへ (厚生労働省/2026年8月27日確認)
許可の要件は四つ。落ちるのはたいてい四つ目です

労働者派遣法第7条第1項は、労働者派遣事業の許可の要件を四つ挙げています。厚生労働省の業務取扱要領は、この四つのすべてに適合していると認められなければ許可を受けることはできない、と書いています。
| 号 | 要件のあらまし | 会社設立の段階で効いてくるところ |
|---|---|---|
| 第1号 | 特定の者にだけ派遣することを目的とした事業でないこと | 主要取引先が1社しかない事業計画は説明を求められます |
| 第2号 | 派遣労働者の雇用管理を適正に行う能力があること | キャリア形成支援制度と派遣元責任者の選任が要ります |
| 第3号 | 個人情報を適正に管理し、秘密を守る措置があること | 個人情報適正管理規程を作っておきます |
| 第4号 | 事業を的確に遂行するに足りる能力があること | 財産的基礎と事業所の要件。ここが最大の関門です |
要件の詳細は厚生労働省の業務取扱要領に書かれています。表は要点を抜き出したものです。
このうち第1号から第3号は、書類を整えて運用の体制をつくれば満たせるものが多く、時間をかければ届く要件です。問題は第4号の財産的基礎、つまり資産要件です。これは書類の整え方でどうにかなるものではなく、決算書の数字そのものが問われます。
だからこそ、人材派遣の会社設立を考えるときは、いちばん最後に見えるこの第4号を、いちばん最初に確かめる必要があります。

出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
資産要件は三つを同時に満たす。ひとつでも欠けると許可は下りません

厚生労働省の業務取扱要領は、許可申請事業主の財産的基礎について三つの基準を示しています。この三つは選択ではありません。同時にすべて満たす必要があります。
| 基準 | 内容 | 事業所1か所の場合 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 資産(繰延資産及び営業権を除く)の総額から負債の総額を控除した額が、2,000万円に事業所数を乗じた額以上 | 2,000万円以上 |
| 負債比率 | 基準資産額が、負債の総額の7分の1以上 | 負債が1億4,000万円を超えると2,000万円では足りません |
| 現金・預金 | 事業資金として自己名義の現金・預金の額が、1,500万円に事業所数を乗じた額以上 | 1,500万円以上 |
事業所を2か所にすると、基準資産額は4,000万円、現金・預金は3,000万円になります。会社設立の段階で事業所を増やす計画があるなら、この掛け算を先に確かめてください。
「繰延資産及び営業権を除く」というただし書きが効きます。創業費や開業費を繰延資産として計上していると、その分は資産に数えられません。のれん(営業権)も同じです。会社設立の初年度は開業費が出やすいため、ここで思ったより基準資産額が伸びないことがあります。

ここから導かれる結論は単純です。人材派遣の会社設立では、資本金をいくらにするかが許可の可否を左右するということです。資本金2,000万円というのは、株式会社の設立登記にかかる登録免許税が資本金の1000分の7で計算されることを考えても、決して小さくない金額です。それでも、この線を越えられるかどうかが最初の分かれ道になります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
小規模派遣元事業主への配慮措置は、これから会社設立する方には使えません

インターネットで資産要件を調べると、「基準資産額1,000万円・現金預金800万円でよい」という説明に行き当たることがあります。これは小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置のことですが、この措置には適用対象の限定があります。
厚生労働省の業務取扱要領は、この配慮措置について「平成28年9月30日以降は、改正法附則第6条第1項の規定により引き続き行うことができることとされた労働者派遣事業を行っている者からの申請に限る」と書いています。これはいわゆる旧特定労働者派遣事業を行っていた事業主を指します。
- 対象になる人
- 平成27年の法改正の前から(旧)特定労働者派遣事業を行っていて、経過措置で事業を続けていた事業主(平成30年9月29日までに新規許可の申請を行い受理された者を含む)
- 対象にならない人
- これから新しく会社設立をして、はじめて労働者派遣事業の許可を申請する人
- 10人以下の措置
- 1つの事業所のみ・常時雇用の派遣労働者10人以下の中小企業事業主に対する、当分の間の措置。基準資産額1,000万円・現金預金800万円
- 5人以下の措置
- 1つの事業所のみ・常時雇用の派遣労働者5人以下の中小企業事業主に対する、平成27年9月30日から平成30年9月29日までの3年間の暫定措置。基準資産額500万円・現金預金400万円
なお、労働組合等から供給される労働者を対象として労働者派遣事業を行う場合など、別の読み替え規定もあります。ただしこれも一般的な人材派遣の会社設立には当てはまりません。例外を広く読まないことが、結果として近道になります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
会社設立の費用と、許可申請の費用は別に積む

人材派遣の会社設立にかかるお金は、登記のための費用と、許可申請のための費用に分かれます。どちらにも登録免許税という名前の税金が出てくるため、混同しやすいところです。
| 区分 | 項目 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 会社設立(株式会社) | 定款認証手数料 | 資本金100万円未満3万円/100万円以上300万円未満4万円/その他5万円 |
| 会社設立(株式会社) | 登録免許税 | 資本金の額の1000分の7。15万円に満たないときは15万円 |
| 会社設立(合同会社) | 登録免許税 | 資本金の額の1000分の7。6万円に満たないときは6万円 |
| 許可申請 | 許可手数料(収入印紙) | 12万円+5万5千円×(事業所数−1) |
| 許可申請 | 登録免許税 | 許可1件あたり9万円 |
定款認証手数料は令和6年12月1日から、一定の条件を満たす資本金100万円未満の会社について1万5,000円になっています。条件は日本公証人連合会のページでご確認ください。
事業所1か所で株式会社を設立する場合、許可申請の側だけで12万円+9万円=21万円の法定費用がかかります。資本金2,000万円の株式会社なら登録免許税は1000分の7で14万円となり15万円に満たないため15万円、これに定款認証手数料5万円を加えると、法定費用の合計はおよそ41万円という計算になります。

そして忘れがちなのが、許可が下りるまでの固定費です。事業所の家賃、役員報酬、通信費は、営業ができない期間にも出ていきます。会社設立から許可取得までを2〜3か月と見るなら、その分の運転資金を資産要件とは別に用意しておく必要があります。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
事業所と派遣元責任者。人とハコの要件も先に決めておく

資産要件の次に効いてくるのが、事業所と人の要件です。どちらも会社設立の段階で決めておかないと、あとから動かすのが大変になります。
事業所は、おおむね20平方メートル以上
業務取扱要領は、事業所について「事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること」としています。あわせて、風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないことも求められます。
この20平方メートルという広さには意味があります。派遣元責任者が仕事をする場所に加えて、派遣スタッフと面談やキャリアコンサルティングを行うための、個人的な秘密を保持できる場所が要るからです。そして許可の審査には、事業所の実地確認が含まれます。
派遣元責任者は、講習を受けてから申請する
派遣元責任者になれるのは、未成年者でなく欠格事由に該当せず、成年に達した後3年以上の雇用管理の経験を有する者などです。加えて、厚生労働省告示に定められた講習機関が実施する派遣元責任者講習を、許可の申請の受理の日前3年以内に受講している必要があります。
順番に注意してください。講習は申請の前です。申請してから受ければよいものではありません。また、派遣元責任者が不在のときの臨時の職務代行者も、あらかじめ選任しておく必要があります。一人で人材派遣の会社設立をしようとする場合、この職務代行者をどうするかが最初の課題になります。

出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
許可は取って終わりではない。更新とその後の義務

労働者派遣事業の許可には有効期間があります。初めて許可を受けた場合は許可の日から起算して3年、一度更新を受けた場合は、更新前の有効期間が満了する日の翌日から起算して5年です。以後はこれを繰り返します。
そして更新の申請は、許可の有効期間が満了する日の3か月前までに事業主管轄労働局へ提出しなければならず、申請日の超過は認められません。
さらに、許可を取ったあとには次のような義務が続きます。いずれも会社設立の段階では見えにくいものですが、人件費と事務の負担として毎年かかってきます。
- キャリアアップに資する教育訓練の実施。フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり、少なくとも最初の3年間は毎年概ね8時間以上の機会を、有給かつ無償で提供すること
- キャリアコンサルティングの相談窓口の設置と、担当者の配置
- 教育訓練等の情報を管理した資料を、労働契約終了後3年間保存すること
- マージン率や派遣料金の平均額などの情報を、インターネットなどで提供すること
- 派遣スタッフの社会保険・労働保険の適正な加入
- 同一労働同一賃金への対応(労使協定方式か、派遣先均等・均衡方式かの選択)
労働局には指導・監督の権限があり、違反があれば改善命令や事業停止命令、そして許可の取消に至ることがあります。無許可で労働者派遣を行った場合には罰則もあります。人材派遣は、許可が下りてからのほうが管理する項目の多い事業です。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|会社設立の前に確かめる順番

人材派遣の会社設立について、ここまで見てきたことを順番にまとめます。
- まず資産要件基準資産額2,000万円・現金預金1,500万円・負債比率7分の1。事業所1か所でこの三つを同時に満たせるかを、いちばん先に確かめます。
- 次に資本金の設計借入では基準資産額は増えません。資本金として入れる必要があります。会社設立の登記の登録免許税も資本金で変わります。
- 人とハコおおむね20平方メートル以上の事業所と、講習を受けた派遣元責任者、そして職務代行者。会社設立の前に見通しを立てます。
- 費用は二重会社設立の登録免許税と、許可の登録免許税9万円・収入印紙12万円。別々にかかります。
- 時間の見積もり許可申請は事業開始予定のおおむね2〜3か月前まで。その間は営業できず、固定費だけが出ていきます。
- 許可の後3年ごと(以後5年ごと)の更新、教育訓練、情報提供。許可は取って終わりではありません。
この記事の金額と期限は、2026年8月27日時点で厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。実際に人材派遣の会社設立と許可申請を進めるときは、必ず一次情報にあたったうえで、次のように相談先を分けてください。
- 許可が下りるかどうか
- 所管の都道府県労働局(需給調整事業部門)。審査には事業所の実地確認が含まれます
- 申請書類の作成・提出代行
- 社会保険労務士。就業規則や労働保険の手続きもあわせて相談できます
- 登記の手続き
- 司法書士。定款の事業目的の文言も相談できます
- 役員報酬・決算期・税額の判断
- 税理士
当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や、個別の税務相談ではありません。ここに書いた内容は判断材料であって、結論ではないとお考えください。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
読む順番だけ、間違えないでください
人材派遣の会社設立は、資本金をいくらにするかを決めた時点で、労働者派遣事業の許可が取れるかどうかがおおむね決まってしまいます。会社設立の登記を済ませてから資産要件に気づいても、増資をやり直すには時間もお金もかかります。
ですから順番は、①自分の手元資金で資産要件を満たせるかを確かめる、②満たせるなら会社設立の設計に入る、③登記が終わったら許可申請、です。①を飛ばさないでください。
そのうえで、許可が下りるかどうかの最終的な判断は所管の都道府県労働局が行います。申請書類の作成や提出の代行は社会保険労務士の業務です。役員報酬や決算期といった税額の判断は税理士にご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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