事業所の家賃は、人材派遣の会社設立でいちばん長く効く固定費です
事業所の家賃を考える方へ
人材派遣の会社設立で、事業所の家賃をどう考えればよいかを知りたい方に向けた記事です。
労働者派遣事業の事業所には、事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上という要件があります。この条件がある以上、家賃には下限ができます。
そして人材派遣は、許可が下りるまで営業ができません。家賃は売上のないまま出ていきます。この構造を踏まえて考える必要があります。
面積の要件が、家賃の下限をつくります

人材派遣の会社設立で、事業所の家賃を抑えたいと考えるのは自然なことです。ただ、抑えられる範囲には限りがあります。
労働者派遣事業の許可基準は、事業所について「事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること」としています。
この20平方メートルという条件がある以上、それより狭い物件は選べません。そして20平方メートルという広さの物件には、地域相応の家賃がつきます。
さらに、位置の要件もあります。風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと。家賃の安い物件が、この条件に引っかかることもあります。
つまり、人材派遣の会社設立では、事業所の家賃に下限ができるということです。会社設立の資金計画では、この点を前提にしてください。
一般的な会社設立であれば、事業の内容に応じて事務所の広さを決められます。小さく始めるなら、机ひとつ分のスペースでも事業を始められる業種はあります。人材派遣ではそれができません。
これは、労働者派遣事業が派遣スタッフの雇用管理を伴う事業だからだと考えられます。面談する場所、個人情報を保管する場所。これらが必要になる以上、一定の広さが要るということです。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
許可が下りるまで、家賃は売上なしで出ていきます

人材派遣に固有の事情が、ここにあります。労働者派遣事業の許可が下りるまで、営業ができないということです。
厚生労働省は、許可申請を事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までに行う必要があるとしています。会社設立の準備期間も含めれば、営業開始まで3〜4か月です。
そして許可が下りて営業を始めても、派遣先との契約、派遣スタッフの就業、月末の締め、請求という順を踏むため、最初の入金までさらに1〜2か月かかります。
合計で5〜6か月。この期間、事業所の家賃は売上のないまま出ていきます。

この図を見ると、月額の差が5か月で何倍にもなることが分かります。月12万円と月20万円の差は月8万円ですが、5か月では40万円です。
そして、この家賃は事業を続けるかぎり毎月かかります。会社設立の登記費用や許可申請の費用は一度きりですが、家賃は続きます。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
敷金・礼金という初期費用

家賃だけでなく、契約時の初期費用もあります。
- 敷金(数か月分の家賃)
- 礼金
- 仲介手数料
- 前家賃
- 火災保険料
- 保証会社の利用料
これらを合わせると、家賃の数か月分になることが通例です。月15万円の物件なら、初期費用で60万円から90万円といったところです。
そして、この費用を会社設立の資本金から支払えば、その分だけ基準資産額と自己名義の現金・預金が減ります。
人材派遣の会社設立では、基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円(事業所1か所)という資産要件があります。事業所の初期費用でこれを削ってしまうと、許可申請の時点で要件を満たさないことがあります。
あわせて、内装工事やパーテーションの設置が必要な場合、その費用も加わります。面談できる区画をつくるための工事です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
立地をどう考えるか

家賃を考えるとき、立地の話が出てきます。人材派遣という事業の性質から、いくつかの観点があります。
- 派遣スタッフが来やすいか面談やキャリアコンサルティングのために、派遣スタッフが事業所に来ることがあります。交通の便は無視できません。
- 派遣先を回りやすいか派遣先の開拓と、就業後の連絡調整。営業活動の効率に関わります。
- 日帰りで往復できる範囲か派遣元責任者が苦情処理等の場合に日帰りで往復できる地域に派遣を行うこと、という要件があります。
- 位置の要件を満たすか風俗営業等が密集するなど、事業の運営に好ましくない位置にないこと。
三つ目は許可の要件に関わります。厚生労働省の許可基準は、派遣元責任者が苦情処理等の場合に、日帰りで往復できる地域に労働者派遣を行うものであること、を求めています。
つまり、事業所の場所が、派遣できる範囲を決めるということです。事業計画でどの地域に派遣するかを考えるとき、事業所の場所とあわせて決める必要があります。
家賃の安い郊外に事業所を置けば固定費は抑えられますが、派遣スタッフが来にくくなり、派遣先も回りにくくなります。この兼ね合いを、事業計画に沿って考えてください。
そして、契約を結んだ時点から家賃が発生します。許可が下りるまで営業できないため、この家賃は売上のないまま出ていきます。契約の時期を遅らせれば家賃の負担は減りますが、許可申請も後ろにずれます。
会社設立の準備では、この兼ね合いを考えることになります。要件を満たす物件を早めに押さえておくか、ぎりぎりまで待つか。所管の都道府県労働局への事前相談で、物件の見通しを立ててから決めるのがよいでしょう。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
自宅を使えれば、家賃はゼロになりますが

家賃を抑えるいちばんの方法は、自宅を事業所にすることです。ただし、要件を満たす必要があります。
自宅を事業所にする場合に問題になりやすいのは、次の点です。
- 事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あるか(生活空間を除いて)
- 派遣スタッフと面談できる、秘密を保持できる場所があるか
- 事業所としての独立性が保たれているか(生活空間と分けられているか)
- 賃貸の場合、契約の使用目的が事業所としての使用を認めているか
- 分譲マンションの場合、管理規約で事業所としての使用が認められているか
- 事業所であることが分かる表示ができるか
一つ目と三つ目がとくに難しいところです。生活空間と事業のための空間を明確に分けたうえで、事業用の部分が20平方メートル以上ある必要があります。
そして、派遣スタッフが面談のために自宅を訪れることになります。この点をどう考えるかも、実務上の課題です。
自宅を事業所にできるかどうかは、所管の都道府県労働局にご確認ください。間取り図を持って相談に行けば、具体的な話ができます。会社設立の登記より前に相談できます。
なお、本店を自宅にすれば、登記事項証明書に自宅の住所が載ることになります。登記事項証明書は誰でも取得できるため、この点をどう考えるかという問題もあります。
事業所を借りて、そこを本店にするという形にすれば、この問題は避けられます。家賃はかかりますが、住所の公開という点では安心です。人材派遣の会社設立では、この兼ね合いも考えて決めてください。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
家賃を、資金計画にどう組み込むか

事業所の家賃を、人材派遣の会社設立の資金計画にどう組み込むかを整理します。
| 項目 | 計上のしかた |
|---|---|
| 初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など) | 会社設立の準備費用として一度だけ計上します |
| 無収入期間の家賃 | 会社設立から最初の入金まで5〜6か月分を計上します |
| 営業開始後の家賃 | 毎月の固定費として、収支計画に組み込みます |
| 内装工事・パーテーション | 面談できる区画をつくる費用。初期費用に加えます |
| 更新料 | 賃貸借契約の更新のたびに発生します。数年ごとです |
金額は物件と地域によって大きく変わります。ご自身の事業計画の数字で計算してください。
二つ目がとくに重要です。人材派遣は許可が下りるまで営業できないため、この期間の家賃を先に用意しておく必要があります。
そして、この資金は基準資産額2,000万円という資産要件とは別に必要です。資産要件を満たすための資金を家賃に使えば、その分だけ基準資産額が減るからです。
会社設立の資本金を決めるとき、この無収入期間の家賃を含めて考えてください。資産要件の2,000万円に、家賃を含む固定費の分を上乗せするという形になります。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
事業所を増やすと、家賃も要件も増えます

事業が伸びれば、事業所を増やすという判断が出てきます。ここでも、家賃と要件の両方が増えます。
| 事業所数 | 基準資産額 | 自己名義の現金・預金 | 家賃 |
|---|---|---|---|
| 1か所 | 2,000万円以上 | 1,500万円以上 | 1か所分 |
| 2か所 | 4,000万円以上 | 3,000万円以上 | 2か所分 |
| 3か所 | 6,000万円以上 | 4,500万円以上 | 3か所分 |
あわせて、事業所ごとに派遣元責任者を選任する必要があります。
この表を見ると、事業所を増やすことの負担が三重であることが分かります。資産要件が増え、家賃が増え、人も増やす必要があるからです。
そして、法人住民税の均等割も事業所のある自治体ごとにかかります。事業所を増やせば、その数だけ均等割が発生します。
人材派遣の会社設立では、事業所1か所から始めるのが現実的です。事業が軌道に乗り、資金と人の両方が整ってから増やすという順番になります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
家賃と、許可の維持の関係

家賃は、許可の維持にも関わってきます。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。更新の審査でも、資産要件は確かめられます。
そして、基準資産額は資産の総額から負債の総額を控除した額です。赤字が続けば目減りしていきます。
家賃は毎月の固定費として、利益を圧迫します。家賃が高ければ、その分だけ利益が減り、基準資産額の積み上がりが遅くなります。
つまり、事業所の家賃を決めることは、3年後の更新にも影響するということです。会社設立の段階で、この点を見ておいてください。
そして、事業所を移転する場合には労働局への届出が必要になります。移転先が要件を満たしているかも確かめられます。安易に移転できるものではない、ということも押さえておいてください。
会社設立のときに選んだ事業所を、数年は使い続けることになります。だからこそ、最初の選択が長く効いてきます。面積、位置、家賃、立地。この四つを、事業計画に沿って決めてください。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|事業所の家賃

人材派遣の会社設立における、事業所の家賃についてまとめます。
- 面積の要件が家賃の下限をつくる。 おおむね20平方メートル以上という条件があります。
- 許可が下りるまで、家賃は売上なしで出ていく。 会社設立から最初の入金まで5〜6か月です。
- 事業所を解約することはできない。 事業所は許可の要件であり、実地確認の対象でもあります。
- 初期費用は家賃の数か月分。 資本金から支払えば、基準資産額と現金・預金が減ります。
- 立地は採用と営業に効く。 日帰りで往復できる地域という要件もあります。
- 自宅を使えれば家賃はゼロだが、要件を満たす必要がある。 生活空間と分けたうえで20平方メートル以上です。
- 事業所を増やすと三重の負担。 資産要件、家賃、人。
- 家賃は3年後の更新にも影響する。 利益を圧迫すれば、基準資産額の積み上がりが遅くなります。
会社設立の登記費用も許可申請の費用も、一度きりの支出です。家賃は毎月かかり、事業を続けるかぎり続きます。人材派遣の会社設立で、いちばん長く効く固定費です。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。事業所の要件を満たすかどうかの判断は所管の都道府県労働局へ、資金計画は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
家賃は、いちばん長く効く固定費です
会社設立の登記費用も許可申請の費用も、一度きりの支出です。家賃は毎月かかり、事業を続けるかぎり続きます。
そして人材派遣では、許可が下りるまでの数か月は売上がありません。その間の家賃は、そのまま損失として積み上がります。
事業所の要件を満たすかどうかの判断は所管の都道府県労働局へ、資金計画は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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