労使協定方式の実務。人材派遣の会社設立から毎年続く手続き
労使協定方式を選ぶ方へ
人材派遣の会社設立を進めていて、労使協定方式を選ぼうとしている方に向けた記事です。
この方式では、労使協定を締結することになります。そして賃金の水準は、厚生労働省職業安定局長の通達で示される一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上でなければなりません。
通達は毎年出されるため、協定も毎年締結し直すことが通例です。つまり、毎年続く作業だということです。
労使協定方式を選ぶということ

派遣元事業主は、派遣先均等・均衡方式か労使協定方式のいずれかによって、派遣労働者の待遇を確保することとされています。
このうち労使協定方式を選ぶと、労使協定を締結することになります。そして、その協定にもとづいて派遣労働者の待遇を決めます。
この方式の利点は、派遣先が変わっても賃金の基準が変わらないことです。派遣元の協定にもとづいて決まるからです。
一方で、毎年の協定締結という作業が発生します。賃金の水準の基準となる一般労働者の平均的な賃金の額は、厚生労働省職業安定局長の通達で示され、この通達は毎年出されるからです。
つまり、労使協定方式を選ぶということは、毎年この作業を行うということです。人材派遣の会社設立の段階で、この点を理解しておいてください。
そして、どちらの方式を選んでいるかは情報提供の対象です。労使協定を締結しているか否かの別を、事業所ごとに公開することになります。
なお、この対応は労働者派遣事業の許可を受けたあとに始まります。会社設立の登記を済ませ、許可を取り、派遣スタッフを雇い始めてからの話です。ただし、賃金の水準が収支計画に効いてくるため、会社設立の段階から考えておく必要があります。
人材派遣の会社設立では、許可の要件を満たすことと、この待遇確保の義務に対応することを、あわせて設計することになります。許可が下りてから考えるのでは遅くなります。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
誰と協定を結ぶのか

労使協定は、誰と結ぶのか。相手方は次のいずれかです。
- 労働者の過半数で組織する労働組合
- 労働組合がある場合は、その労働組合と結びます
- 労働者の過半数を代表する者
- 労働組合がない場合は、過半数代表者と結びます
- 「労働者」の範囲
- 派遣スタッフを含む、その事業場の労働者です
- 選出の手続き
- 過半数代表者の選出には、適正な手続きが求められます
人材派遣の会社設立の直後は、労働組合がないことがほとんどでしょう。したがって、過半数代表者を選出することになります。
三つ目に注目してください。「労働者」には派遣スタッフも含まれます。人材派遣では、内勤の従業員より派遣スタッフのほうが多いことが通例です。
つまり、過半数代表者は派遣スタッフのなかから選ばれることが多くなるということです。
そして、この選出には適正な手続きが求められます。会社が一方的に指名するような形は認められません。
そして、この過半数代表者は就業規則の変更のときにも意見を聴く相手になります。労使協定の締結と就業規則の変更で、同じ人が関わることになります。
人材派遣の会社設立では、この選出の手続きを一度決めておけば、毎年それを繰り返すことになります。最初に丁寧に設計しておいてください。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
協定に定める内容

労使協定に定める内容を整理します。中心になるのは賃金の決定方法です。
厚生労働省の公表資料によれば、協定には次のような事項を定めることとされています。
- 協定の対象となる派遣労働者の範囲
- 賃金の決定方法(同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であること、職務の内容等が向上した場合に賃金が改善されることを含む)
- 賃金の決定にあたって、派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力または経験等を公正に評価して賃金を決定すること
- 賃金以外の待遇の決定方法
- 教育訓練を実施すること
- 有効期間
二つ目がいちばん重要です。賃金は、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上でなければならないとされています。
この一般労働者の賃金水準は、厚生労働省職業安定局長の通達で示されます。職種ごと、地域ごとに数字が示されるため、それを確かめて協定の内容を決めることになります。
そして、賃金の改善が図られる仕組みも必要です。職務の内容等が向上した場合に賃金が改善されるという内容です。
そして、協定の対象となる派遣労働者の範囲も定めることになります。すべての派遣スタッフを対象にするのか、特定の職種に限るのか。この範囲の設定も、事業の設計に関わります。
人材派遣の会社設立で協定の案を作るとき、この範囲から決めることになります。どういう職種の派遣スタッフを何人雇うのかという事業計画が、そのまま協定の内容につながります。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
賃金の水準を確かめる

労使協定方式で賃金を決めるとき、基準になるのが一般労働者の平均的な賃金の額です。
この水準は、厚生労働省職業安定局長の通達で示されます。職業安定業務統計や賃金構造基本統計調査といった統計をもとに、職種ごとの賃金水準が示されます。
そして、地域による差も考慮されます。地域指数という形で、都道府県や公共職業安定所の管轄区域ごとの調整が示されます。
さらに、能力・経験に応じた調整もあります。勤続年数に応じて水準が上がる形になっています。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、この水準を確かめてから派遣料金を考えることになります。賃金の下限が決まってくるからです。
そして、この水準は毎年見直されます。賃金が上がれば、派遣料金も上げる必要が出てきます。派遣先との交渉ができる前提で計画を組んでおいてください。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
協定を締結するまでの流れ

労使協定を締結するまでの流れを並べます。

この流れで時間がかかるのは、四つ目の過半数代表者の選出です。適正な手続きが求められるため、周知や投票といった段取りが必要になります。
そして、派遣スタッフが派遣先で働いていることも、この手続きを難しくします。全員に周知し、意見を集める方法を考える必要があります。
人材派遣の会社設立の段階で、この手続きの方法を決めておいてください。電子的な方法で行うといった工夫も考えられます。
事業年度の終わりには決算と申告があり、情報提供の更新もあります。そこに協定の締結が重なると、事務が集中します。会社設立のときに決める事業年度によって、この重なり方が変わります。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
協定と、就業規則の関係

労使協定と就業規則は、別の書類です。ただし、内容は整合している必要があります。
賃金の決定方法を労使協定で定めた場合、就業規則の賃金に関する規定と矛盾しないようにする必要があります。
そして、就業規則を変更する場合には、労働者の過半数で組織する労働組合または過半数代表者の意見を聴き、労働基準監督署に届け出るという手続きが必要です。
つまり、労使協定を変更したことで就業規則も変更する必要が出てくれば、その手続きも発生するということです。
人材派遣の会社設立で就業規則を作るとき、この点も考えておいてください。賃金の決め方を就業規則に細かく書きすぎると、協定の変更のたびに就業規則も変えることになります。
逆に、就業規則では枠組みだけを定め、具体的な水準は労使協定によるという形にすれば、変更の手間は減ります。
そして、就業規則には労働者派遣事業の許可基準が求める四つの内容も入れる必要があります。教育訓練の受講時間の取扱い、契約終了のみを理由とする解雇の規定がないこと、休業手当。これらと賃金の規定を、整合させることになります。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
情報提供との関係

労使協定を締結しているか否かの別は、情報提供の対象です。
派遣元事業主には、事業所ごとの派遣労働者の数、派遣先の数、派遣料金の平均額、派遣労働者の賃金の平均額、マージン率、労使協定を締結しているか否かの別、派遣労働者のキャリア形成支援制度に関する事項などについて、情報提供することが求められています。
つまり、どちらの方式を選んでいるかは外から分かる情報だということです。派遣スタッフにも派遣先にも見られます。
そして、派遣料金の平均額と派遣労働者の賃金の平均額も公開されます。この二つからマージン率が計算されます。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、これらが公開されることを前提にしてください。説明できる数字にしておく必要があります。
情報提供は、インターネットの利用その他の適切な方法により行うこととされています。会社設立の段階で、掲載する場所を用意しておいてください。
あわせて、事業報告書の提出もあります。派遣元事業主は、毎事業年度経過後に、事業所ごとの事業に係る事業報告書を作成し、厚生労働大臣に提出することとされています。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
毎年の作業を、誰が担うのか

労使協定方式を選ぶと、毎年の作業が発生します。この作業を誰が担うのかを決めておいてください。

この作業は、忙しくなると後回しになりがちです。売上に直結しないうえ、期限が明確でないこともあるからです。
ただし、対応していなければ法令違反になります。そして、労働局には指導・監督の権限があります。
人材派遣の会社設立で一人に近い体制を考えている場合、この作業も自分でこなすことになります。社会保険労務士に依頼するという方法もあります。
労働局には指導・監督の権限があり、違反があれば改善命令、事業停止命令、そして許可の取消に至ることがあります。同一労働同一賃金への対応も、この監督の対象です。
人材派遣の会社設立では、許可を取ることがゴールではありません。許可を維持しながら、こうした義務に対応し続けることになります。会社設立の段階で、その体制を作っておいてください。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|労使協定方式の実務

労使協定方式の実務について、まとめます。
- 毎年締結し直すことが通例。 通達が毎年出されるためです。
- 相手方は労働組合か過半数代表者。 派遣スタッフも「労働者」に含まれます。
- 賃金は一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上。 職種・地域・勤続年数によって水準が示されます。
- 過半数代表者の選出には適正な手続きが必要。 会社が一方的に指名する形は認められません。
- 就業規則との整合をとる。 賃金の決め方を細かく書きすぎると、変更の手間が増えます。
- 締結の有無は公開される。 情報提供の対象です。
- 毎年の作業を誰が担うかを決める。 後回しになりやすい作業です。
労使協定方式は、派遣先が変わっても賃金の基準が変わらないという利点があります。一方で、毎年の協定締結という作業が発生します。
人材派遣の会社設立の段階で、この作業を続けられる体制を作っておいてください。社会保険労務士に継続的に依頼するという方法もあります。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。協定の作成と締結の手続きは社会保険労務士へ、要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
毎年続く作業として、体制を作ってください
労使協定方式を選べば、毎年の協定締結という作業が発生します。過半数代表者の選出、協定の作成、締結、周知。これを繰り返すことになります。
人材派遣の会社設立の段階で、この作業を誰が担うのかを決めておいてください。忙しくなると後回しになりやすい作業です。
協定の作成と締結の手続きは社会保険労務士へ、要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?