同一労働同一賃金で、人材派遣の会社設立の人件費設計はこう変わる
収支計画への影響を知りたい方へ
人材派遣の会社設立を考えていて、同一労働同一賃金への対応が収支にどう効いてくるかを知りたい方に向けた記事です。
賃金には下限ができます。そして賃金が決まれば、社会保険料の事業主負担も決まります。つまり、人件費の大部分が制度によって決まってくるということです。
この記事では、その制約のなかで収支をどう組み立てるかを整理します。
賃金には下限ができます

同一労働同一賃金への対応が、人材派遣の収支に効いてくる最大の点はここです。派遣スタッフの賃金には下限ができます。
派遣元事業主は、派遣先均等・均衡方式か労使協定方式のいずれかによって、派遣労働者の待遇を確保することとされています。
労使協定方式を選ぶ場合、賃金は同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上でなければならないとされています。この水準は、厚生労働省職業安定局長の通達で示されます。
派遣先均等・均衡方式を選ぶ場合は、派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を確保することになります。こちらも、比較対象の待遇によって水準が決まってきます。
どちらの方式でも、会社が自由に賃金を決められる部分は限られているということです。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、この点を前提にしてください。賃金を低く見積もった計画は、そもそも成り立ちません。
そして、この水準は毎年見直されます。労使協定方式の場合、通達が毎年出されるからです。賃金が上がる年もあれば、据え置かれる年もあります。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
賃金が決まれば、社会保険料も決まります

賃金の水準が決まれば、社会保険料の事業主負担も決まります。
健康保険と厚生年金保険の保険料は、標準報酬月額という区分にもとづいて計算されます。賃金が上がれば区分が上がり、保険料も上がります。
雇用保険と労災保険の保険料は、賃金総額に料率を掛けて計算されます。こちらも賃金に比例します。
そして、子ども・子育て拠出金は事業主が全額を負担します。これも賃金に比例します。
つまり、賃金の水準が制度によって決まってくるということは、社会保険料の事業主負担も決まってくるということです。
人材派遣の会社設立で人件費を見積もるとき、賃金と事業主負担をセットで計算してください。片方だけを抑えることはできません。
そして、これらの料率は年度によって改定されます。会社設立の収支計画では、その時点の料率で計算し、改定の可能性も見込んでおいてください。
出典全国健康保険協会(協会けんぽ) (全国健康保険協会/2026年8月27日確認)
教育訓練の費用も乗ります

賃金と社会保険料に加えて、教育訓練の費用も乗ります。
労働者派遣事業の許可の要件として、キャリアアップに資する教育訓練の実施が求められます。そして、有給かつ無償で行うことが原則とされています。
厚生労働省の許可基準は、フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり、少なくとも最初の3年間は、毎年概ね8時間以上の教育訓練の機会の提供が必要であるとしています。
この受講時間の賃金と、それに乗る社会保険料の事業主負担が発生します。
さらに、入職時の教育訓練は派遣労働者全員に必須です。採用のたびに発生します。
そして、教材費や外部講師の費用、キャリアコンサルティングの相談窓口の担当者の人件費も加わります。
人材派遣の会社設立で人件費を見積もるとき、この教育訓練の分も入れてください。許可の要件である以上、実施しないという選択はできません。
そして、教育訓練の記録も残すことになります。教育訓練等の情報を管理した資料は、労働契約終了後3年間の保存が求められます。この記録の管理にも手間がかかります。
人材派遣の会社設立では、この記録の仕組みも決めておいてください。許可の更新のときに、実施状況を示す材料になります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
積み上げると、派遣料金の下限が見えてきます

ここまでの費用を積み上げると、派遣料金の下限が見えてきます。

この例では、賃金25万円に対して、直接の負担だけで29万3千円になります。さらに教育訓練、採用、営業・事務の費用が乗ります。
そして、事業所の家賃と役員報酬という固定費もあります。これらを人数で割って配賦すれば、一人あたりの費用はさらに上がります。
派遣料金は、この積み上げを上回る必要があります。そうでなければ、稼働しても利益が出ません。
人材派遣の会社設立で事業計画を作るとき、この順番で考えてください。賃金の水準を先に置き、費用を積み上げ、そこから派遣料金の下限を出すということです。
そして、その派遣料金で派遣先が契約してくれるかどうかを確かめてください。ここが現実的かどうかが、事業計画の成否を分けます。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
マージン率は公開されます

派遣料金と賃金の関係は、公開される情報でもあります。
派遣元事業主には、事業所ごとの派遣労働者の数、派遣先の数、派遣料金の平均額、派遣労働者の賃金の平均額、マージン率、労使協定を締結しているか否かの別などについて、情報提供することが求められています。
つまり、派遣料金の平均額と賃金の平均額の両方が公開されるということです。そこからマージン率が計算されます。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、この数字が公開されることを前提にしてください。
そして、マージン率が高いことが悪いわけではありません。マージンには、社会保険料の事業主負担、教育訓練の費用、営業と事務の人件費、事業所の家賃が含まれるからです。
ただし、公開される数字である以上、説明できる形にしておく必要があります。何にいくら使っているのかを、自分で把握しておいてください。
情報提供は、インターネットの利用その他の適切な方法により行うこととされています。会社設立の段階で、掲載する場所を用意しておいてください。
あわせて、派遣先も見ます。派遣料金の平均額が公開されるということは、その水準が外から分かるということです。取引の交渉にも関わってきます。
人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、この透明性を前提にしてください。数字を隠して事業を組み立てることはできません。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
方式の選択が、設計を変えます

二つの方式のどちらを選ぶかで、人件費の設計も変わります。

派遣先均等・均衡方式では、派遣先ごとに待遇を設計することになります。派遣先が増えれば、その分だけ設計の手間も増えます。
労使協定方式では、派遣元の協定で一律に決められます。設計は一度で済みますが、毎年締結し直すことになります。
そして、賃金の水準そのものも変わります。派遣先均等・均衡方式では派遣先の水準、労使協定方式では一般労働者の水準が基準になるからです。
人材派遣の会社設立でどちらを選ぶかは、事業の内容によって変わります。どういう派遣先に、どういう職種の派遣スタッフを送るのか。それによって、有利な方式が変わることもあります。
この判断は、社会保険労務士に相談しながら決めてください。人件費の設計そのものに関わる判断です。
そして、どちらの方式を選んでいるかは情報提供の対象です。事業所ごとに公開されるため、外から分かる情報になります。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
収支が成り立たなければ、許可の維持に影響します

収支の話は、許可の維持にもつながっています。
人件費が積み上がり、派遣料金でそれを賄えなければ、赤字になります。赤字が続けば、基準資産額が目減りします。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。更新の審査でも、資産要件は確かめられます。
基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円・負債比率7分の1以上(事業所1か所)という三つを、更新のときにも満たしている必要があります。
つまり、収支が成り立たなければ、事業そのものを続けられなくなるということです。
人材派遣の会社設立で事業計画を作るとき、この連鎖まで見ておいてください。賃金の下限、社会保険料の負担、教育訓練の費用。これらを積み上げて、なお利益が出る形にする必要があります。
そして、会社設立の段階で資本金に余裕を持たせておけば、初年度の赤字を吸収できます。要件を割り込むまでに余裕があるということです。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
会社設立の段階で、何を確かめるか

人材派遣の会社設立の段階で、この点について確かめることを整理します。

この順番で大事なのは、いちばん上から順に決まっていくということです。職種と地域が決まれば賃金の水準が決まり、賃金が決まれば社会保険料が決まります。
そして、最後に派遣料金の水準を確保できるかを確かめます。ここが現実的でなければ、事業計画そのものを見直すことになります。
人材派遣の会社設立を進める前に、この確認をしておいてください。許可を取ってから収支が合わないと分かるのでは、遅すぎます。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|人件費設計の変化

同一労働同一賃金への対応が、人材派遣の人件費設計にどう効いてくるかをまとめます。
- 賃金には下限ができる。 どちらの方式を選んでも、会社が自由に決められる部分は限られています。
- 賃金が決まれば社会保険料も決まる。 事業主負担は賃金に比例します。
- 教育訓練の費用も乗る。 有給かつ無償。許可の要件でもあります。
- 積み上げると派遣料金の下限が見える。 賃金を先に置き、費用を積み上げます。
- マージン率は公開される。 説明できる形にしておいてください。
- 方式の選択が設計を変える。 賃金の水準と運用の負担が変わります。
- 収支が成り立たなければ許可の維持に影響する。 赤字が続けば基準資産額が目減りします。
かつては、派遣料金から賃金を逆算するという考え方もあり得ました。同一労働同一賃金への対応が求められる現在、この順番は逆になります。
賃金の水準が先に決まり、そこに社会保険料の事業主負担が乗り、教育訓練の費用が乗る。それを積み上げたうえで、派遣料金の水準を確保できるかを考えることになります。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省・全国健康保険協会の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。収支の設計は税理士へ、賃金と待遇の設計は社会保険労務士へ、要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
派遣料金から逆算する時代ではありません
かつては、派遣料金から賃金を逆算するという考え方もあり得ました。同一労働同一賃金への対応が求められる現在、この順番は逆になります。
賃金の水準が先に決まり、そこに社会保険料の事業主負担が乗り、教育訓練の費用が乗る。それを積み上げたうえで、派遣料金の水準を確保できるかを考えることになります。
収支の設計は税理士へ、賃金と待遇の設計は社会保険労務士へ、要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行ではありません。
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