派遣料金と賃金のバランス。人材派遣の会社設立で決める価格設計
価格をどう決めるか迷っている方へ
人材派遣の会社設立を進めていて、派遣料金と賃金の水準をどう決めるか迷っている方に向けた記事です。
派遣料金から賃金を引いた差額が、会社の取り分になります。ただし、そこから社会保険料の事業主負担、教育訓練の費用、営業と事務の人件費が出ていきます。
そして、この差額の割合はマージン率として公開されます。会社設立の段階で、説明できる形にしておく必要があります。
派遣料金と賃金の関係

人材派遣の収入は、派遣先から受け取る派遣料金です。支出の中心は、派遣スタッフに支払う賃金です。
この差額が、会社の取り分になります。マージンと呼ばれるものです。
ただし、この差額がそのまま利益になるわけではありません。ここから、いくつもの費用が出ていきます。
- 社会保険料の事業主負担(健康保険・厚生年金保険)
- 労働保険料(労災保険・雇用保険)の事業主負担
- 教育訓練の費用(原則として有給かつ無償で実施)
- 有給休暇を取得したときの賃金
- 営業と事務の人件費
- 事業所の家賃、通信費、システムの費用
三つ目に注目してください。労働者派遣事業の許可の要件として、キャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練を実施することが求められています。そして厚生労働省の業務取扱要領は、これを有給かつ無償で実施することが原則であるとしています。
つまり、教育訓練を受けている時間の賃金は会社が負担するということです。派遣先から料金は入りませんが、賃金は発生します。
人材派遣の会社設立で価格を設計するとき、この費用を織り込んでください。
四つ目の有給休暇も同じです。派遣スタッフが有給休暇を取得した日は、派遣先から料金は入りませんが、賃金は支払います。稼働率が下がる要因として、会社設立の段階から見込んでおいてください。
人材派遣の会社設立では、この一覧を先に書き出しておくことをおすすめします。項目を並べておけば、あとから数字を入れるだけで収支計画になります。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
社会保険料の事業主負担を、数字で置く

差額から出ていく費用のうち、いちばん大きいものが社会保険料の事業主負担です。
健康保険と厚生年金保険の保険料は、労使が折半して負担します。厚生年金保険の保険料率は18.300パーセントで固定されており、その半分が事業主の負担です。
健康保険の保険料率は、協会けんぽの場合、都道府県ごとに定められています。全国健康保険協会が毎年度公表しています。40歳以上65歳未満の方には介護保険料も加わります。
労働保険についても、労災保険は全額事業主負担、雇用保険は事業主と労働者がそれぞれ負担します。
これらを合わせると、賃金に対して一定の割合の事業主負担が発生します。賃金が上がれば、事業主負担も上がります。
そして、派遣スタッフの人数が増えれば、事業主負担の総額も増えます。売上が増えるときには、この費用も同時に増えているということです。
人材派遣の会社設立で資金繰りを考えるとき、この点が効いてきます。人を増やした月は、賃金と社会保険料の支払いが先に来て、派遣料金の入金はあとに来るからです。
社会保険への加入は義務です。労働者派遣事業の許可の審査でも、適正な雇用管理が求められます。加入させないという選択はありません。
出典保険料額表 (全国健康保険協会/2026年8月27日確認)
差額の使い道を、分解する

差額がどう使われるのかを、数字で分解してみます。

この図で見ていただきたいのは、いちばん下です。残りが5パーセント程度になることも珍しくありません。
そして、そこから法人税等を払い、借入があれば返済します。人材派遣の会社設立で借入をしている場合、この返済も差額から出ていきます。
さらに、労働者派遣事業の許可には資産要件があります。基準資産額が2,000万円に事業所数を乗じた額以上であることなどが求められ、これは更新のときにも見られます。
つまり、利益を残して純資産を維持しなければ、許可の更新に影響するということです。
人材派遣の会社設立で価格を設計するとき、この最後の一行まで見てください。残りがゼロに近ければ、事業は続きません。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
賃金の水準は、自由には決められません

賃金の水準を下げれば差額は増えます。しかし、賃金は自由には決められません。
派遣労働者の待遇については、派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のいずれかによることとされています。
労使協定方式を選ぶ場合、協定対象派遣労働者の賃金の額は、同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同等以上であることが必要とされています。
この一般的な賃金水準は、厚生労働省が職業安定局長通達により毎年度示しています。地域指数もあわせて示されます。
つまり、この水準を下回る賃金では、労使協定方式を選べないということです。
派遣先均等・均衡方式を選ぶ場合は、派遣先の通常の労働者との均等・均衡が求められます。こちらも自由ではありません。
人材派遣の会社設立で価格を設計するとき、賃金には下限があると考えてください。差額を増やしたいなら、賃金を下げるのではなく、派遣料金を上げる方向で考えることになります。
そして、労使協定方式を選ぶ場合、協定は毎年度締結し直すことになります。事業所ごとに、過半数労働組合または過半数代表者との間で結びます。人材派遣の会社設立では、この事務も年間の予定に入れておいてください。
出典派遣労働者の同一労働同一賃金について (厚生労働省/2026年8月27日確認)
派遣料金は、交渉で決まります

賃金に下限があるなら、派遣料金を上げるしかありません。しかし、派遣料金は派遣先との交渉で決まります。
労働者派遣法には、派遣先が派遣料金の額について配慮することを求める規定があります。
同一労働同一賃金の枠組みでは、派遣元が派遣労働者の待遇を確保できるよう、派遣先が配慮すべきものとされています。
ただし、配慮が求められているということと、必ず値上げに応じてもらえるということは違います。交渉は交渉です。
人材派遣の会社設立の直後は、実績がありません。交渉力も弱くなります。この点も見込んで、収支計画を立ててください。
そして、価格で勝負しない方向も考えられます。特定の分野に絞る、教育訓練を充実させる、定着率で選ばれる。こうした方向です。
そして、いったん決めた派遣料金を途中で上げるのは簡単ではありません。契約の更新のタイミングで交渉することになります。最初の価格が、その後をしばらく縛るということです。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
何人いれば回るのかを、計算する

価格が決まったら、何人の派遣スタッフが必要なのかを計算します。

最後の行が答えです。固定費を1人あたりの粗利で割れば、何人いれば固定費を賄えるのかが出ます。
そして、実際には利益も必要です。許可の資産要件を維持し、借入を返済し、法人税等を払うためです。したがって、この人数に上乗せが要ります。
人材派遣の会社設立でこの計算をすると、想像より多くの人数が必要だと分かることがあります。それが分かることに意味があります。
会社設立の前にこの数字を置いておけば、資本金をいくらにするか、いつ許可申請をするか、いくら借りるかの判断ができます。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
公開される数字であることを、忘れない

派遣元事業主には、事業所ごとの情報を提供する義務があります。
提供する情報には、労働者派遣に関する料金の額の平均額、派遣労働者の賃金の額の平均額、いわゆるマージン率が含まれます。
つまり、ここまで設計してきた数字は公開されるということです。
派遣スタッフも、派遣先も、この数字を見ます。したがって、説明できる価格設計にしておく必要があります。
マージン率が高いこと自体は問題ではありません。教育訓練を充実させ、社会保険にきちんと加入させ、キャリアコンサルティングの窓口を用意すれば、その分の費用がかかるからです。
説明できないマージンが問題になります。人材派遣の会社設立では、何に使っているのかを言葉にできる形にしておいてください。
なお、情報提供は事業所ごとに行います。人材派遣の会社設立で事業所を複数持つ計画がある場合、それぞれの数字を公開することになります。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
価格が崩れると、許可の維持に響きます

価格設計を誤ると、利益が出ません。利益が出なければ、純資産が減ります。
労働者派遣事業の許可には資産要件があります。基準資産額が2,000万円に当該事業主が労働者派遣事業を行う事業所の数を乗じた額以上であること。基準資産額が負債の総額の7分の1以上であること。事業資金として自己名義の現金・預金の額が1,500万円に事業所数を乗じた額以上であること。
そして、この要件は許可の更新のときにも確認されます。厚生労働省の業務取扱要領は、更新申請の際にも許可の基準を満たすことが必要である旨を示しています。
つまり、赤字を続けて純資産が減れば、更新に影響するということです。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。この期間のあいだに、要件を維持しなければなりません。
人材派遣の会社設立で価格を設計するとき、この維持を前提にしてください。ぎりぎりの価格では、要件を保てなくなります。
赤字が続けば、基準資産額も現金・預金の額も減っていきます。会社設立の段階で用意した資本金を、事業で削っていく形になるからです。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|派遣料金と賃金のバランス

人材派遣の会社設立で決める価格設計について、まとめます。
- 差額は利益ではない。 社会保険料の事業主負担、教育訓練の費用、営業と事務の人件費がここから出ます。
- 社会保険料の事業主負担は賃金に連動する。 賃金を上げれば、事業主負担も上がります。
- 賃金には下限がある。 労使協定方式では、一般の労働者の平均的な賃金の額と同等以上であることが必要です。
- 派遣料金は交渉で決まる。 派遣先の配慮は求められていますが、必ず応じてもらえるとは限りません。
- 必要な人数を計算する。 固定費を1人あたりの粗利で割ります。
- 数字は公開される。 派遣料金の平均額、賃金の平均額、マージン率が情報提供の対象です。
- 利益が出なければ許可の維持に響く。 資産要件は更新のときにも確認されます。
価格設計は、人材派遣の会社設立でいちばん大事な作業かもしれません。ここを誤れば、許可が下りても事業が続きません。
会社設立の前に、数字を置いてください。何人必要なのか、いくらの運転資金が要るのか。それが分かってから、資本金と借入を決めてください。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省・日本年金機構などの公表資料により確認したものです。保険料率や賃金水準は改定されます。許可の可否は所管の都道府県労働局が判断します。賃金の設計と社会保険の手続きは社会保険労務士へ、税務の判断は税理士へご相談ください。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
数字を置いてから、事業を判断してください
派遣料金と賃金の設計は、勘では決められません。社会保険料の事業主負担と、教育訓練の費用と、固定費を数字で置いてください。
その上で、何人の派遣スタッフが必要なのかを計算してください。人材派遣の会社設立で立てる収支計画は、そこから始まります。
許可の可否は所管の都道府県労働局が判断します。労使協定の賃金水準や社会保険の手続きは社会保険労務士へ、税務の判断は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説です。
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