人材派遣を合同会社で始めるとき、何が変わって何が変わらないのか
合同会社という選択肢を検討している方へ
人材派遣の会社設立で、合同会社を選ぼうか迷っている方に向けた記事です。
先に結論を書いておくと、変わるのは設立の費用と会社の仕組み、変わらないのは労働者派遣事業の許可の要件です。基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円という線は動きません。
この記事では、その前提のうえで合同会社を選ぶ意味を考えます。
変わらないもの|労働者派遣事業の許可の要件

人材派遣を合同会社で始める場合でも、労働者派遣事業の許可の要件は株式会社と同じです。ここを最初に確かめておきます。
- 基準資産額
- 2,000万円に事業所数を乗じた額以上。会社形態では変わりません
- 自己名義の現金・預金
- 1,500万円に事業所数を乗じた額以上。同じです
- 負債比率
- 基準資産額が負債の総額の7分の1以上。同じです
- 事業所の要件
- 事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上。同じです
- 派遣元責任者
- 成年に達した後3年以上の雇用管理の経験など。同じです
- 許可手数料と登録免許税
- 収入印紙12万円+5万5千円×(事業所数−1)、登録免許税9万円。同じです
つまり、合同会社を選んでも人材派遣を始めるハードルは下がりません。用意する資金の大部分は資産要件が占めており、その部分は動かないからです。
会社設立の法定費用が14万円ほど安くなるという話と、基準資産額2,000万円を用意しなければならないという話は、桁が違います。合同会社を選ぶ理由を費用だけに置くと、判断を誤ることがあります。

この図を見ると、会社形態で変わる部分がどれだけ小さいかが分かります。基準資産額2,000万円という置いておくお金に対して、設立費用の差は6万円です。桁が三つ違います。
合同会社を選ぶ理由を費用に置くなら、この比率を頭に入れておいてください。費用を抑えることそのものは正当な判断ですが、人材派遣の会社設立では効き目が限られます。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
変わるもの|会社設立の費用

合同会社を選ぶことで変わるのが、会社設立の登記にかかる費用です。差は二つあります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 | 差 |
|---|---|---|---|
| 定款の認証 | 公証人の認証が必要 | 不要 | 手数料の分 |
| 定款の認証手数料 | 資本金300万円以上で5万円 | なし | 5万円 |
| 設立登記の登録免許税 | 資本金の1000分の7。15万円に満たないときは15万円 | 資本金の1000分の7。6万円に満たないときは6万円 | 資本金2,000万円で9万円 |
| 合計(資本金2,000万円の場合) | 20万円 | 14万円 | 6万円 |
紙の定款の場合は、どちらにも収入印紙4万円がかかります。専門家に依頼する場合の報酬は含みません。
資本金2,000万円で計算すると、合同会社の登録免許税は1000分の7で14万円になります。最低額の6万円を超えるため、14万円がそのまま適用されます。株式会社は最低額の15万円です。
したがって、資本金2,000万円のときの差は、定款認証手数料5万円と登録免許税1万円の合計6万円になります。資本金がもっと小さければ差は広がりますが、人材派遣では資産要件から資本金を小さくできません。
この点は、一般的な会社設立の記事とは結論が変わるところです。人材派遣では資本金が大きくなるため、合同会社を選ぶことによる登録免許税の節約幅は小さくなります。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
変わるもの|会社の仕組み

合同会社と株式会社の本質的な違いは、出資と経営の関係にあります。
株式会社は、出資者(株主)と経営者(取締役)を分けられる仕組みです。株主が経営に直接関わらないという形も取れます。
合同会社は、出資者(社員)がそのまま業務を執行する仕組みです。出資と経営が一体になっています。

人材派遣の会社設立で、この違いが効いてくるのが共同設立の場合です。派遣元責任者の要件を満たす人と一緒に会社を作る、というケースがあります。
合同会社では、持分の譲渡に原則として他の社員全員の同意が必要です。あとから方向性が分かれたときに、持分を整理しにくくなることがあります。株式会社であれば、株式の譲渡という形で整理できます。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
派遣先と派遣スタッフから、どう見られるか

人材派遣は、派遣先の企業と派遣スタッフの両方を相手にする事業です。会社形態が、この二つからどう見られるかという観点があります。
派遣先については、取引先の審査で会社形態が見られることがあります。ただし、労働者派遣事業の許可を受けていること自体が一定の信用にはなります。許可には資産要件があり、それを満たしていることが公的に確認されているからです。
派遣スタッフの採用については、求人を見る側の印象という話になります。合同会社という形態そのものへの認知度は上がってきていますが、株式会社に比べると馴染みが薄いと感じる方もいます。
- 派遣先の与信審査で会社形態を見られることがあります
- 労働者派遣事業の許可番号は、公的な信用の裏づけになります
- 派遣スタッフの採用では、会社の名前と形態が応募の判断材料になることがあります
- 取引先が上場企業の場合、取引の基準に会社形態が含まれることがあります
- 金融機関からの借入では、会社形態より決算の内容が重視されるのが通例です
これらは制度の話ではなく、実務上の感覚の話です。会社設立の判断材料としては、事業の対象や取引先の性質によって重みが変わります。

この六つのうち、いちばん重いのは最初の項目です。資産要件を満たせなければ、会社形態を議論する意味がありません。人材派遣の会社設立では、まずここを確かめてください。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
合同会社での会社設立の手順

合同会社で人材派遣の会社設立をする場合の手順を並べます。株式会社との違いは、定款の認証がないことと、機関設計が簡素なことです。
- 基本事項を決める。 商号、本店所在地、事業目的、資本金の額、事業年度、社員の構成、業務執行社員と代表社員。
- 定款を作成する。 事業目的に労働者派遣事業を行うことが読み取れる文言を入れます。公証人の認証は不要です。
- 出資を履行する。 社員が出資金を払い込みます。
- 登記を申請する。 法務局へ。登録免許税は資本金の1000分の7で、6万円に満たないときは6万円。
- 登記事項証明書と印鑑証明書を取る。 許可申請の添付書類になります。
人材派遣に固有の注意点は、株式会社と同じです。定款の事業目的に労働者派遣事業を行うことが読み取れる文言を入れること、資本金の額を許可の資産要件から逆算して決めることの二つです。
そして、会社設立の登記が完了しなければ労働者派遣事業の許可申請には進めません。この順番も同じです。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
合同会社の役員と、許可申請の書類

労働者派遣事業の許可申請では、法人の場合、役員の住民票の写しと履歴書を提出します。合同会社では、この「役員」にあたるのが業務執行社員です。
合同会社では、定款で業務執行社員を定めない場合、社員全員が業務執行社員になります。定款で特定の社員を業務執行社員として定めることもできます。
- 業務執行社員
- 会社の業務を執行する社員。株式会社の取締役にあたります
- 代表社員
- 会社を代表する社員。株式会社の代表取締役にあたります
- 許可申請の書類
- 業務執行社員の住民票の写し(本籍地の記載あり・個人番号の記載なし)と履歴書
- 欠格事由
- 法人の役員についても欠格事由が及びます。該当者がいれば許可を受けられません
- 派遣元責任者
- 業務執行社員が兼ねることもできます。要件を満たしている必要があります
社員が複数いて全員が業務執行社員である場合、全員分の書類が必要になります。会社設立の段階で社員を増やすと、その分だけ許可申請の書類が増えるということです。
これは株式会社で取締役を増やす場合と同じ構造です。人材派遣の会社設立では、人を増やすことが書類の量にも影響します。
あわせて、派遣元事業主についての要件も業務執行社員に及びます。労働保険・社会保険の適用基準を満たす派遣労働者の適正な加入を行うこと、名義を借用して許可を得るものではないことなどです。人材派遣の会社設立で誰を業務執行社員にするかは、この点も含めて決めてください。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
あとから株式会社にしたくなったら

合同会社で人材派遣の会社設立をしたあと、株式会社にしたくなった場合、組織変更という手続きがあります。
組織変更計画の作成、総社員の同意、債権者保護手続、そして登記という段取りになります。登記は、合同会社の解散の登記と株式会社の設立の登記を同時に行う形になり、登録免許税がかかります。
費用も時間もかかるため、会社設立のときに14万円を惜しんで、あとで組織変更をすることになれば、結果として高くつきます。
- 組織変更計画を作成します
- 総社員の同意が必要です
- 債権者保護手続(官報公告と個別の催告)が必要で、一定の期間がかかります
- 登記の登録免許税がかかります
- 労働者派遣事業の許可について、変更の届出等が必要になります
最後の項目に注意してください。組織変更をすれば、商号も法人格の形も変わります。労働者派遣事業の許可を受けている場合、変更の届出等が必要になります。手続きについては所管の都道府県労働局にご確認ください。
逆に、株式会社から合同会社への組織変更も制度としては可能です。ただし人材派遣の会社設立で、この方向の変更が選ばれることはあまりありません。株式会社のほうが対外的な選択肢が広いためです。
いずれにしても、組織変更には債権者保護手続という期間のかかる手続きが含まれます。人材派遣では、その間も許可の維持と日々の運営が続きます。会社設立の段階で決めておくのがいちばん確実です。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
まとめ|合同会社を選ぶかどうかの判断

人材派遣を合同会社で始める場合について、まとめます。
- 許可の要件は変わらない。 基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円・負債比率7分の1以上(事業所1か所)。
- 設立費用は安くなるが、差は小さい。 資本金2,000万円なら、定款認証手数料5万円と登録免許税1万円の合計6万円ほど。
- 合同会社の登録免許税は資本金に比例する。 858万円あたりで最低額の6万円を超えます。人材派遣では14万円前後になります。
- 出資と経営が一体。 持分の譲渡には原則として他の社員全員の同意が必要です。
- 役員の重任登記が不要。 実務上の負担が軽くなります。
- 許可申請の書類は業務執行社員の分が必要。 社員を増やせば書類も増えます。
- あとから株式会社にするには組織変更が必要。 費用と時間がかかり、労働局への手続きも加わります。
人材派遣の会社設立では、資本金が大きくなるため合同会社の費用面の利点が小さくなります。費用だけで選ぶより、会社の仕組みと将来の形を考えて選んでください。
この記事の金額は2026年8月27日時点で、厚生労働省・法務局・日本公証人連合会・国税庁の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。許可の可否は所管の都道府県労働局へ、登記は司法書士へ、役員報酬や決算の設計は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
合同会社を選ぶなら、理由を持って選んでください
設立費用が安いという理由だけで合同会社を選ぶと、あとから株式会社にしたくなったときに組織変更という手続きが必要になります。費用も時間もかかります。
出資者と経営者が同じでよいか、持分の譲渡に制約があってよいか、派遣先や派遣スタッフからどう見られるか。これらを考えたうえで選んでください。
許可の要件については所管の都道府県労働局へ、登記は司法書士へ、役員報酬や決算の設計は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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