一人ではじめた人材派遣は、どこまで回せるのか。会社設立のあとの実務量から考える
小さく始めようとしている方へ
人材派遣の会社設立を、なるべく小さな体制で始めたいと考えている方に向けた記事です。
許可を取ることと、事業を回すことは別の話です。この記事では、許可を取ったあとに発生する実務を、派遣スタッフの人数ごとに積み上げます。
どこまでを自分でやり、どこから人を増やすか、あるいは外に出すか。その判断材料にしてください。
許可を取ることと、事業を回すことは別です

人材派遣の会社設立を考えるとき、どうしても許可を取ることに意識が向きます。基準資産額2,000万円、事業所おおむね20平方メートル以上、派遣元責任者の要件。これらを満たせば許可は下ります。
ところが、許可の要件を満たすことと、事業を回せることは別です。許可を取ったあとには、日々の実務が待っています。
この記事では、その実務を具体的に積み上げます。一人に近い体制で人材派遣の会社設立をする場合、どこまで回せるのかを見積もるためです。
- 営業の仕事派遣先の開拓、契約の締結と更新、就業条件の調整。売上をつくる仕事です。
- 採用の仕事求人、面談、雇用契約、労働条件の明示。人材派遣は人を集める事業です。
- 管理の仕事派遣元管理台帳、社会保険、給与計算、請求と回収。滞れば事業が止まります。
- 法令上の義務教育訓練、キャリアコンサルティング、情報提供、事業報告書。許可の要件でもあります。
この四つのうち、一人でやると必ず後回しになるのが四つ目です。売上に直結しないからです。ところが四つ目は許可の要件でもあり、更新の審査で実施状況を見られます。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
派遣スタッフ1人あたりに発生する作業

派遣スタッフを1人雇うと、どういう作業が発生するのかを並べます。人材派遣の会社設立を考える段階では見えにくい部分です。
| 時期 | 作業 | 備考 |
|---|---|---|
| 採用時 | 求人、応募対応、面談 | 人材派遣は人を集め続ける事業です |
| 採用時 | 雇用契約の締結、労働条件の明示 | 書面等による明示が必要です |
| 採用時 | 入職時の教育訓練 | 派遣労働者全員に必須です |
| 採用時 | 社会保険・雇用保険の資格取得届 | 要件を満たす場合 |
| 就業前 | 派遣先との労働者派遣契約 | 就業条件の明示も必要です |
| 就業中 | 派遣元管理台帳の作成と記録 | 派遣スタッフごとに作成します |
| 毎月 | 勤怠の集計と給与計算 | 派遣先からの報告をもとに |
| 毎月 | 給与の支払い | 入金より先に払います |
| 毎月 | 派遣先への請求と回収 | |
| 毎年 | キャリアアップ教育訓練 | 最初の3年間は毎年概ね8時間以上、有給かつ無償 |
| 随時 | キャリアコンサルティング | 相談窓口で対応します |
| 退職時 | 資格喪失届、離職票の手続き | |
| 退職後 | 教育訓練等の記録の保存 | 労働契約終了後3年間 |
このほかに、苦情処理、就業条件の変更、契約の更新といった作業が随時発生します。
この表を見ると、採用のたびに一定の作業が発生し、そのうえで毎月の作業が積み上がることが分かります。派遣スタッフが10人いれば、毎月の作業は10人分です。
会社設立の段階では、この作業量を具体的に想像しにくいかもしれません。ただ、人材派遣は人数に比例して事務が増える事業だという点は、押さえておいてください。
派遣元管理台帳について補足します。派遣元事業主は、派遣労働者ごとに台帳を作成し、必要な事項を記載することとされています。厚生労働省の業務取扱要領は、教育訓練等の情報の管理についても、原則として派遣元管理台帳等を活用することを求めています。
つまり、台帳は許可の要件とも結びついています。会社設立の段階で、どういう形で台帳を作り、どう記録していくかを決めておくと、あとが楽になります。紙で管理するのか、表計算で管理するのか、専用の仕組みを使うのか。それぞれに手間と費用があります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
人数が増えると、何が起こるか

派遣スタッフの人数が増えると、作業量は比例して増えます。売上も増えますが、一人で回せる限界が先に来ることがあります。

この図はあくまで考え方を示すものですが、傾向は明確です。人数が増えれば事務も増え、その分だけ営業と採用に使える時間が減ります。
そして人材派遣では、営業と採用を止めると事業が縮みます。派遣スタッフは辞めますし、派遣先との契約も終わります。稼働人数を維持するだけでも、営業と採用は止められません。
一人で人材派遣の会社設立をした場合、この二つの仕事のあいだで時間の取り合いが起こります。事務に追われて営業ができない、あるいは営業に追われて教育訓練を実施できない、という状態です。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
外に出せる仕事と、出せない仕事

一人で回すのが難しいと分かったとき、選択肢は二つです。人を増やすか、外に出すか。まず、外に出せる仕事とそうでない仕事を分けます。

右側の一つ目、派遣元責任者としての職務は外に出せません。派遣元責任者は事業所ごとに選任するもので、名義だけを借りる形は許可基準が明確に否定しています。
左側を外に出せば、一人で回せる規模は広がります。給与計算と社会保険の手続きは人数に比例して増える作業なので、ここを外に出す効果は大きくなります。
ただし、外に出せば費用がかかります。人材派遣の会社設立で収支計画を立てるとき、この費用を見込んでおいてください。派遣スタッフが増えれば、外注の費用も増えます。
外に出す場合の費用は、依頼する範囲と人数によって変わります。給与計算は人数あたりの単価で決まることが多く、派遣スタッフが増えれば費用も増えます。会社設立の段階で見積もりを取っておくと、収支計画に組み込めます。
そして、外に出しても責任がなくなるわけではありません。社会保険の加入は許可基準にも関わる事項です。手続きを社会保険労務士に依頼していても、適正に加入させる責任は派遣元事業主にあります。会社設立の段階で、この点は理解しておいてください。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
人を増やすタイミングを、どう決めるか

人を増やすタイミングは、事業が始まってから考えると遅くなります。会社設立の段階で、目安を決めておくことをおすすめします。
人材派遣で人を増やす理由は、大きく三つあります。
- 職務代行者として。 許可の要件です。会社設立の段階で必要になります。
- 事務が回らなくなったとき。 給与計算、社会保険、請求。人数に比例して増えます。
- 営業と採用を強化するとき。 事業を伸ばすための増員です。
このうち一つ目は、選ぶ余地がありません。許可を取る時点で職務代行者が必要だからです。二つ目と三つ目が、判断の対象になります。
判断の目安としては、稼働している派遣スタッフの人数、事務にかかっている時間、営業に使えている時間の三つを見ることになります。事務の時間が営業の時間を上回りはじめたら、増員か外注を考える時期です。
そして、増やした人にも社会保険の加入が必要になります。派遣スタッフだけでなく、内勤の従業員についても同じです。会社設立の資金計画では、この事業主負担も見込んでおいてください。
なお、内勤の従業員を増やす場合、その人が派遣元責任者や職務代行者の要件を満たすかどうかも確かめておくと、体制の選択肢が広がります。成年に達した後3年以上の雇用管理の経験がある人であれば、将来的に事業所を増やすときにも役立ちます。
人材派遣の会社設立では、人の要件が事業の広がり方を決める面があります。誰を採用するかは、単なる人手の話ではないということです。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
情報提供と事業報告書は、規模にかかわらず必要です

人材派遣には、規模にかかわらず果たさなければならない義務があります。情報提供と事業報告書です。
派遣元事業主には、事業所ごとの派遣労働者の数、派遣先の数、派遣料金の平均額、派遣労働者の賃金の平均額、マージン率、労使協定を締結しているか否かの別、派遣労働者のキャリア形成支援制度に関する事項などについて、インターネットの利用その他の適切な方法により情報提供することが求められています。
派遣スタッフが5人でも50人でも、この義務は同じです。会社設立の段階で、これらを公開する場所を用意しておく必要があります。
- 情報提供の項目
- 派遣労働者の数、派遣先の数、派遣料金の平均額、賃金の平均額、マージン率、労使協定の締結の有無、キャリア形成支援制度に関する事項など
- 提供の方法
- インターネットの利用その他の適切な方法により
- 更新の頻度
- 事業年度ごとの実績にもとづき更新することになります
- 事業報告書
- 毎事業年度経過後に、事業所ごとの事業に係る報告書を作成し提出します
- 集計の作業
- 決算とあわせて行うことになります
マージン率は、派遣スタッフにも派遣先にも見られる数字です。会社設立の段階で収支計画を立てるときは、この数字が公開されることを前提に組んでください。
一人で人材派遣の会社設立をする場合、この集計と公開も自分の作業になります。決算の直後は、決算・申告、情報提供の更新、事業報告書の作成が重なる時期になります。
この時期を、派遣先の年度替わりと重ねないようにするという考え方があります。会社設立のときに決める事業年度は、こうした事務の集中を避けるためにも使えます。決算期の設計は税理士と相談しながら決めてください。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
小さく始めるための、現実的な組み立て

ここまでを踏まえて、小さく始めるための組み立て方を考えます。

このなかで、会社設立の前に必ず決めておきたいのが職務代行者です。許可の要件だからです。それ以外は、事業を進めながら調整できます。
そして、規模を決めておくことには意味があります。派遣スタッフを10人までにすると決めれば、必要な運転資金も、事務にかかる時間も見積もれるからです。無制限に伸ばそうとすると、資金も時間も足りなくなります。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|一人でどこまで回せるか

一人に近い体制で人材派遣の会社設立をした場合の、実務量についてまとめます。
- 許可を取ることと、事業を回すことは別。 要件を満たしても、回るとは限りません。
- 派遣スタッフ1人ごとに作業が発生する。 採用時、毎月、毎年、退職時。
- 人数が増えれば事務も比例して増える。 営業と採用に使える時間が減ります。
- 外に出せる仕事とそうでない仕事がある。 派遣元責任者の職務は外に出せません。
- 人を増やすタイミングを先に決めておく。 職務代行者は会社設立の段階で必要です。
- 情報提供と事業報告書は規模にかかわらず必要。 小さくても免除されません。
- 回せる規模を決めてから設計する。 無制限に伸ばそうとすると、資金も時間も足りなくなります。
人材派遣は、規模を小さくしても要件が軽くならない事業です。基準資産額も、事業所の面積も、教育訓練の義務も同じです。会社設立の段階で、この点を踏まえて規模を設計してください。
最後にもうひとつ。人材派遣の会社設立を小さく始めた場合でも、許可の更新は同じように来ます。初めての許可は3年、そのあとは5年ごとです。更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までで、申請日の超過は認められません。
小さな体制ほど、この期限を見落としやすくなります。会社設立の段階で、更新の時期を予定として書き留めておいてください。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。給与計算や社会保険の手続きは社会保険労務士へ、記帳と決算は税理士へ、許可の要件については所管の都道府県労働局へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
回せる規模を、先に決めておいてください
人材派遣は、派遣スタッフが増えるほど事務が比例して増える事業です。給与計算も社会保険の手続きも教育訓練も、人数分だけ発生します。
会社設立の段階で「何人まで一人で回すか」を決めておくと、人を増やす時期を判断しやすくなります。決めていないと、気づいたときには事務に追われて営業ができない、という状態になります。
給与計算や社会保険の手続きは社会保険労務士に、記帳と決算は税理士に依頼できます。許可の要件については所管の都道府県労働局へ。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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