許可が下りるまで、人材派遣は売上が立ちません。会社設立からの資金繰りを組む
この記事を読んでいただきたい方
基準資産額2,000万円は用意できそうだけれど、その先の資金繰りが見えていない方。
人材派遣の会社設立にあたって、いつからお金が入ってくるのかを具体的に知りたい方。
資産要件を満たす資金と、事業を回す資金は別だという前提で読んでください。この二つを混ぜて計算すると、許可は取れたのに運転資金が足りない、という状態になります。
許可が下りるまでの期間、収入はゼロです

人材派遣の会社設立でいちばん見落とされやすいのが、この期間の存在です。会社設立の登記が終わっても、労働者派遣事業の許可が下りるまでは人材派遣の営業ができません。つまり売上が立ちません。
厚生労働省は、許可申請を事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までに行う必要があるとしています。書類の準備期間も含めれば、会社設立から営業開始までに3〜4か月を見ておくことになります。

この図で注目していただきたいのは、いちばん下の行です。許可が下りて営業を始めても、その日に入金があるわけではありません。派遣先を見つけ、契約を結び、派遣スタッフが働き、その月の請求を締めて、翌月または翌々月に入金される。ここまで来てはじめて現金が入ってきます。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
資産要件の資金と、運転資金は別に数える

ここが人材派遣の会社設立でいちばん間違えやすいところです。基準資産額2,000万円・現金預金1,500万円という資産要件は、許可を受けるための条件です。事業を回すための運転資金とは役割が違います。
もちろん、資産要件を満たすために用意した現金を運転資金として使うことはできます。ただしそのとき、基準資産額と現金・預金の額は減っていきます。そして許可の更新の際には、また同じ水準を満たしているかを見られます。

たとえば会社設立の資本金を2,000万円ちょうどにして、そこから設立費用・許可申請費用・事業所の初期費用を出したとします。仮にこれらで200万円を使えば、基準資産額は1,800万円になります。この状態で許可申請をすれば、資産要件を満たしません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
人材派遣は、給与が先で入金が後

人材派遣という事業の資金構造を、順番で書くとこうなります。
- 派遣先と労働者派遣契約を結ぶ
- 派遣スタッフを雇用し、派遣先で働いてもらう
- 月末で締めて、派遣スタッフに給与を支払う
- 派遣先に請求書を送る
- 翌月末または翌々月末に、派遣料金が入金される
3番目と5番目のあいだに、1か月から2か月の開きがあります。この間、派遣スタッフの給与と社会保険料の事業主負担は、会社が立て替えている形になります。
そして問題は、この立て替えが事業が伸びるほど大きくなることです。派遣スタッフを10人にすれば10人分、30人にすれば30人分の給与を先に払う必要があります。売上が伸びているのに現金が足りない、という状態はここから生まれます。

この金額に人数を掛けたものを、入金までの1〜2か月分持っている必要があります。10人なら、おおよそ600万円から1,200万円という規模になります。人材派遣の会社設立で運転資金が重いと言われるのは、この構造のためです。
さらに、派遣先が支払いを遅らせたり、契約が途中で終わったりした場合にも、派遣スタッフへの給与の支払いは止まりません。無期雇用の派遣労働者について、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定を置いてはならないことは、許可の基準にも書かれています。次の派遣先が見つからず休業させた場合には、労働基準法第26条に基づく手当を支払う旨の規定があることも求められます。
つまり人材派遣は、派遣先との契約が切れても人件費が残る事業だということです。会社設立の資金計画では、この「切れたあと」の期間も見込んでおく必要があります。
出典一般社団法人 日本人材派遣協会 (日本人材派遣協会/2026年8月27日確認)
社会保険と労働保険は、許可の要件でもあります

派遣スタッフの社会保険・労働保険への加入は、単なる法令上の義務にとどまりません。労働者派遣事業の許可基準は、派遣元事業主について「労働保険、社会保険の適用基準を満たす派遣労働者の適正な加入を行うものであること」を求めています。
つまり、保険料を払いたくないから加入させない、という選択肢は人材派遣にはありません。加入させないことは、許可の判断に直接影響します。
- 健康保険・厚生年金保険
- 法人は原則として適用事業所になります。派遣スタッフも要件を満たせば被保険者になります
- 雇用保険
- 1週間の所定労働時間や雇用の見込みなど、要件を満たす場合に加入します
- 労災保険
- 事業主が保険料を全額負担します。派遣元が加入します
- 未加入者がいる場合の届出
- 許可申請の様式第3号-3は、派遣労働者のうち雇用保険または健康保険・厚生年金保険の未加入者がいる場合にのみ提出するものとされています
会社設立の資金計画では、給与そのものだけでなく、この事業主負担分を必ず上乗せしてください。健康保険・厚生年金保険の保険料は労使で折半しますが、労災保険は事業主の全額負担です。
なお、会社設立の直後は社長一人であっても、法人であれば原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。役員報酬を出すかどうかとあわせて、設立の段階で設計しておく項目です。
出典新規適用の手続き (日本年金機構/2026年8月27日確認)
借入で資産要件は満たせない。それでも借入が要る場面

この記事で繰り返してきたとおり、借入では基準資産額は増えません。資産と負債が同時に増えるからです。しかも負債が増えると、基準資産額が負債総額の7分の1以上という三つ目の要件も苦しくなります。
では借入は無意味かというと、そうではありません。資産要件を満たすための借入は効かないが、運転資金としての借入は役に立つという使い分けになります。

日本政策金融公庫は創業時の融資制度を用意しています。ただし人材派遣の場合、借入が負債として計上されることで許可の資産要件に影響する点は、他業種の会社設立と事情が違います。融資の相談をするときは、労働者派遣事業の許可を取る予定であることを伝えたうえで、返済計画を組んでください。
出典創業支援(日本政策金融公庫) (日本政策金融公庫/2026年8月27日確認)
助成金は当てにしすぎない。ただし知っておく

人材派遣と相性のよい助成金はあります。キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金は、派遣スタッフの正社員化や教育訓練を支援する制度です。労働者派遣事業の許可要件であるキャリア形成支援制度と重なる部分もあります。
ただし、会社設立の資金計画に助成金を組み込むときは注意が要ります。理由は三つあります。
- 後払いである多くの助成金は、対象となる取組を実施し、要件を満たしたことを確認したうえで支給されます。先に支出があります。
- 支給されない場合がある要件を満たさなければ支給されません。予算の状況や制度の改正で、要件そのものが変わることもあります。
- 手続きに手間がかかる計画の届出、実施、支給申請という段取りがあり、書類の作成負担があります。
ですから助成金は、資金計画の柱ではなく、うまくいけば戻ってくるものとして位置づけるのが安全です。会社設立の段階で「助成金があるから資本金は少なくていい」と考えるのは、順序が逆になります。助成金の支給決定を待つあいだにも、派遣スタッフの給与と社会保険料は毎月出ていきます。
また、助成金は原則として返済不要ですが、雑収入として計上されます。受け取った期の利益が増えれば、その分の法人税等がかかります。基準資産額という観点では利益が増えるのは歓迎できますが、納税資金は別に用意しておく必要があります。
一方で、人材派遣は教育訓練が許可の要件になっている事業です。どのみち教育訓練は実施しなければなりません。それなら使える助成金は調べておいたほうがよい、という考え方は成り立ちます。
出典事業主の方のための雇用関係助成金 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
更新のときに資産要件を割り込むと、どうなるか

会社設立のときに資本金2,000万円を用意して許可を取れたとします。その後、営業がうまくいかず赤字が続けば、基準資産額は目減りしていきます。
労働者派遣事業の許可の有効期間は、初めて許可を受けた場合が3年、一度更新を受けた場合が5年です。更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までに行う必要があり、申請日の超過は認められません。
そして更新の審査では、新規のときと同じ資産要件が確かめられます。基準資産額が2,000万円を割り込んでいれば、更新できないという結論になり得ます。
- 初年度に大きく赤字を出すと、2期目・3期目で取り戻す必要が出てきます
- 役員報酬を高く設定すると、その分だけ利益が減り、基準資産額の回復が遅れます
- 設備投資や採用への支出も、現金・預金の額を減らします
- 更新の3か月前という期限があるため、直前の決算だけを見て慌てても間に合いません
ここが、当サイトが会社設立そのものより設立後の設計を重く見ている理由です。人材派遣は、許可が下りてからが本番です。
なお、基準資産額または自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てをするときは、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限られます。更新申請については、日本公認会計士協会が平成30年12月20日付けで公表した実務指針に基づく「合意された手続業務」による中間決算・月次決算でも可能とされています。いずれにしても第三者の手続が入るため、費用と日数がかかります。更新の3か月前という期限から逆算すると、動き出す時期は決算のさらに前ということになります。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|会社設立の資金計画に入れておくもの

人材派遣の会社設立にあたって、資金計画に入れておくべきものを並べます。
| 区分 | 項目 | 考え方 |
|---|---|---|
| 資産要件 | 基準資産額 | 2,000万円×事業所数以上。会社設立の資本金として入れる |
| 資産要件 | 自己名義の現金・預金 | 1,500万円×事業所数以上 |
| 法定費用 | 会社設立の登記 | 定款認証手数料と登録免許税 |
| 法定費用 | 許可申請 | 収入印紙12万円+登録免許税9万円(事業所1か所) |
| 無収入期間 | 家賃・役員報酬・通信費 | 会社設立から営業開始まで3〜4か月分 |
| 運転資金 | 派遣スタッフの給与 | 入金より1〜2か月先に支払う分 |
| 運転資金 | 社会保険料の事業主負担 | 給与に上乗せしてかかります |
| 維持費 | 法人住民税の均等割 | 赤字でもかかります。標準税率で年7万円程度。自治体で異なります |
金額は前提条件によって変わります。会社形態・資本金・事業所数・派遣スタッフの人数・決算期が変われば結果も変わります。
この表のうち、上の二つだけを見て会社設立に踏み切ると、許可は取れても事業が回らないという状態になりかねません。逆に、下の項目まで積み上げて足りないと分かったなら、それは会社設立を先に延ばす判断材料になります。
この記事の数字は2026年8月27日時点で確認したものです。制度は改正されます。許可の可否は所管の都道府県労働局へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、資金計画と税額の判断は税理士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
最後に、いちばん大事なこと
人材派遣の資金繰りは、派遣スタッフへの給与が先、派遣先からの入金が後、という順番でできています。この順番は、事業が伸びるほどきつくなります。売上が増えれば、先に払う給与も増えるからです。
しかも許可の更新のたびに、基準資産額2,000万円・現金預金1,500万円という水準を満たしているかを見られます。会社設立のときに一度満たせばよい、という性質のものではありません。
資金計画の具体的な組み立ては税理士に、許可の資産要件の判定は所管の都道府県労働局にご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、個別の税務相談や許可申請の代行ではありません。
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