人材派遣の会社設立の流れを、最初から許可証の交付まで通しで並べる
この記事は、全体像をつかみたい方に向けています
人材派遣の会社設立について、何をどの順でやるのかを一度通しで見ておきたい方。
個々の要件の細かい話ではなく、作業の並びを知りたい方に向けて書いています。
それぞれの要件の中身は、この記事から各カテゴリーの記事へたどれるようにしています。まずは地図として使ってください。
全体像|人材派遣の会社設立は五つの段に分かれます

人材派遣の会社設立から営業開始までを大きく分けると、五つの段になります。細かい作業は数十ありますが、この五つの並びを頭に入れておけば迷いません。
- 第1段:設計事業目的の文言、資本金の額、事業所、派遣元責任者を決めます。ここでほぼ勝負がつきます。
- 第2段:登記定款をつくり、資本金を払い込み、法務局に登記を申請します。株式会社は公証人の認証が要ります。
- 第3段:申請準備就業規則、個人情報適正管理規程、教育訓練計画。登記の待ち時間と並行して進めます。
- 第4段:許可申請都道府県労働局へ。収入印紙12万円と登録免許税9万円を添えます。
- 第5段:審査事業所の実地確認を含む審査。労働政策審議会への諮問を経て許可証が交付されます。
このうち第1段が最も重要です。ここで決めたことが、あとの四つの段すべてに影響します。そして第1段だけは、費用をかけずにやり直せます。
一般的な会社設立であれば、第2段の登記が終われば事業を始められます。人材派遣がそうならないのは、第4段と第5段が加わるからです。この二段があるために、会社設立から営業開始までの期間は他業種より長くなり、その間の固定費が資金計画に効いてきます。

出典人材派遣・職業紹介を行う皆さまへ (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第1段|設計。ここで決めることが四つ

人材派遣の会社設立で、いちばん最初に決めるのは次の四つです。どれも会社設立の登記より前に決まっていなければなりません。
| 決めること | 確かめる基準 | 決めそこねたときの手戻り |
|---|---|---|
| 資本金の額 | 基準資産額2,000万円・現金預金1,500万円(事業所1か所) | 増資の手続きと変更登記。時間と費用がかかります |
| 定款の事業目的 | 労働者派遣事業を行うことが読み取れるか | 株主総会の特別決議と変更登記 |
| 事業所 | 事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上 | 移転か区画の変更。賃貸借契約のやり直し |
| 派遣元責任者 | 成年に達した後3年以上の雇用管理の経験など。講習の受講 | 受講の日程待ちで数週間ずれます |
この四つは互いに関係します。事業所を2か所にすれば資産要件は倍になり、派遣元責任者も事業所ごとに必要になります。
四つのなかでも資本金の額が最も重いのは、基準資産額が「資産の総額から負債の総額を控除した額」だからです。借入で用意しても基準資産額は増えません。会社設立のときに資本金として入れておくのが、いちばん手戻りの少ない形になります。
そしてこの段階で、事業所の候補を実際に見に行っておくことをおすすめします。図面上は20平方メートルあっても、共用部分を含んでいたり、面談できる区画が取れなかったりすることがあるからです。許可の審査には事業所の実地確認が含まれます。
会社設立の本店所在地をどこにするかも、この段階で決まります。自宅を本店にして会社設立をすること自体はできますが、労働者派遣事業の事業所として使えるかどうかは別の判断になります。面積、独立性、面談できる場所、そして周囲の状況。この四つを満たせない場所であれば、事業所は別に構えることになります。その場合の家賃も、会社設立の資金計画に入れておく必要があります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第2段|定款をつくり、登記する

設計が固まったら、会社設立の登記に進みます。手順そのものは他業種と同じです。人材派遣に固有なのは、事業目的の文言と資本金の額が許可に直結するという一点だけです。
- 基本事項を決める。 商号、本店所在地、事業目的、資本金の額、事業年度、役員の構成。
- 定款をつくる。 事業目的には労働者派遣事業を行うことが読み取れる文言を入れます。
- 定款を認証する(株式会社の場合)。 公証役場で認証を受けます。合同会社は認証が不要です。
- 資本金を払い込む。 発起人の個人口座に払い込み、通帳の写しなどで証明します。
- 登記を申請する。 法務局へ。登録免許税は株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円です。
- 登記事項証明書と印鑑証明書を取る。 許可申請の添付書類になります。
定款の認証手数料は、資本金100万円未満が3万円、100万円以上300万円未満が4万円、それ以外が5万円です。人材派遣では資産要件との関係で資本金が大きくなるため、5万円になることがほとんどです。

この段階で気をつけたいのが、資本金から設立費用を出すと基準資産額が目減りするという点です。資本金2,000万円ちょうどで会社設立をして、ここから20万円を払えば、基準資産額は1,980万円になります。設計の段階で余裕を見ておく必要があるのは、このためです。
なお、会社設立の登記が完了した時点で、法人は原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。役員報酬を出すかどうかにかかわらず、日本年金機構への新規適用の届出が必要です。人材派遣の会社設立では、この社会保険の手続きも第3段と並行して進めることになります。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
第3段|登記の待ち時間に、書類を整える

登記を申請してから登記事項証明書が取れるまで、1〜2週間かかります。この時間を待ちに使うのはもったいないので、許可申請の準備を並行して進めます。
派遣元責任者講習を受ける
講習は、厚生労働省告示(平成27年厚生労働省告示第392号)に定められた講習機関が実施します。許可の申請の受理の日前3年以内の受講に限られます。会場の日程が埋まることもあるため、早めに申し込んでおきます。あわせて、派遣元責任者が不在のときの臨時の職務代行者も選任しておきます。
就業規則の該当箇所を整える
許可申請では、就業規則または労働契約のうち、教育訓練の受講時間を労働時間として扱い相当する賃金を支払う旨、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇しない旨、休業させた場合に労働基準法第26条に基づく手当を支払う旨などを規定した部分の写しを求められます。
個人情報適正管理規程をつくる
派遣労働者等の個人情報を取り扱う職員の範囲、職員への教育、開示・訂正の取扱いとその周知、苦情処理の体制。これらを含む規程を定めます。
キャリア形成支援の書類をつくる
段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画と、キャリアコンサルティングの相談窓口。教育訓練は、フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり、少なくとも最初の3年間は毎年概ね8時間以上、有給かつ無償で行うこととされています。

出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第4段|許可を申請する

登記事項証明書がそろったら、許可申請です。申請は事業主単位(会社単位)で行い、事業主の主たる事務所を管轄する都道府県労働局に提出します。
提出する書類の中心は次の二つです。
- 労働者派遣事業許可申請書(様式第1号)3通(正本1通、写し2通)
- 労働者派遣事業計画書(様式第3号、第3号-2および様式第3号-3)3通(正本1通、写し2通)
様式第3号-3は、派遣労働者のうち雇用保険または健康保険・厚生年金保険の未加入者がいる場合にのみ提出するものとされています。
これに、第2段・第3段でそろえた添付書類を2通(正本1通、写し1通)添えます。そして手数料です。
| 区分 | 金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 許可手数料(収入印紙) | 12万円+5万5千円×(事業所数−1) | 労働者派遣法第54条、施行令第9条 |
| 登録免許税 | 許可1件あたり9万円 | 登録免許税法第21条 |
収入印紙の消印後は、手数料は返却されません。登録免許税は日本銀行などに納付し、領収書を許可申請書に貼付します。
なお、申請に先立って派遣元責任者が講習を受講しておく必要があります。申請してから受ければよいものではありません。第3段を飛ばして第4段に進むことはできない、ということです。
資産の状況を示す書類として、法人の場合は最近の事業年度における貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書、法人税の確定申告書の写し、法人税の納税証明書が求められます。会社設立の直後でまだ決算を迎えていない場合の取り扱いは、所管の都道府県労働局にご確認ください。会社設立の時期と決算期の決め方が、ここで効いてくることがあります。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
第5段|審査と実地確認、そして許可証の交付

申請が受理されると審査に入ります。ここで人材派遣に固有なのが、事業所の実地確認です。書類だけでなく、実際の事業所が見られます。
確認されるのは、事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あること、その位置・設備等からみて労働者派遣事業を行うのに適切であること、風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないことなどです。
面積の20平方メートルには、派遣元責任者が仕事をする場所だけでなく、派遣スタッフと面談やキャリアコンサルティングを行う、個人的な秘密を保持できる場所の分が含まれます。

審査を経て許可が下りると、許可証が交付されます。厚生労働省の業務取扱要領によれば、労働局は許可証を交付する際に、労働者派遣事業制度の適正な運営、派遣事業と請負により行われる事業との区分などについての講習を実施することとされています。
この講習の内容が示すとおり、許可が下りた時点で終わりではありません。ここからが、人材派遣という事業の始まりです。
出典労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 適正な運営の確保に関する措置に係る手続 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
この流れのどこで、どれくらい時間がかかるか

会社設立から営業開始までの期間を、段ごとに見ておきます。あくまで目安であり、状況によって前後します。
- 第1段:設計
- 数週間〜数か月。資産要件を満たす資金の準備に時間がかかる場合、ここがいちばん長くなります
- 第2段:登記
- 1〜2週間。定款の認証と登記の申請から、登記事項証明書が取れるまで
- 第3段:申請準備
- 2〜4週間。第2段と並行できます。講習の日程が取れないと延びます
- 第4段:許可申請
- 申請日そのものは1日。ただし事業開始予定のおおむね2〜3か月前までに行う必要があります
- 第5段:審査
- おおむね2〜3か月。実地確認の日程調整を含みます
合計すると、資金の準備ができている状態から数えても3〜4か月です。そこから営業を始めて、最初の派遣料金が入金されるまでにさらに1〜2か月かかります。
そして、この期間中も家賃・役員報酬・通信費といった固定費は出ていきます。人材派遣の会社設立で資金計画が重くなるのは、資産要件そのものより、この無収入期間があるためです。
もうひとつ、会社設立の時期そのものを考える材料があります。法人住民税の均等割は、赤字であってもかかります。標準税率であれば、資本金等の額が1千万円以下で従業者数50人以下の場合、道府県民税2万円と市町村民税5万円の合計7万円です。税率や金額は自治体によって異なります。会社設立から営業開始までの期間が長い人材派遣では、この均等割も無収入期間の固定費として数えておくことになります。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|通しで見た人材派遣の会社設立

人材派遣の会社設立の流れを、もう一度短くまとめます。

止まりやすいのは、資産要件・事業目的の文言・事業所の面積・派遣元責任者の講習の四つです。いずれも第1段と第3段に属します。つまり、自分の側で早められる部分に集中しています。
この記事の金額と期限は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。実際に進めるときは、許可の可否は所管の都道府県労働局へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、登記は司法書士へ、役員報酬や決算期といった税額の判断は税理士へご確認ください。
当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
止まりやすいのは、いつも同じ場所です
この流れのなかで止まりやすいのは、資産要件・事業目的の文言・事業所の面積・派遣元責任者の講習の四つです。いずれも会社設立の登記より前に決まってしまうものばかりです。
逆に言えば、この四つさえ先に片づけておけば、あとは書類を順に出していく作業になります。
許可が下りるかどうかは所管の都道府県労働局の審査によります。審査には事業所の実地確認が含まれます。申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士、登記は司法書士、税額の判断は税理士にご相談ください。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?