人材派遣の会社設立が途中で止まる四つの場所と、その戻り方
この記事は、こういう場面で読んでください
人材派遣の会社設立を進めていて、いまどこかで詰まっている方。
あるいは、これから進める前に「どこで詰まるのか」を先に知っておきたい方。
止まる場所はだいたい決まっています。この記事では四つに絞って、それぞれ何が起きて、どう戻るのか、いくらかかるのかを書きます。抜け道を探す記事ではありません。戻り方を書く記事です。
止まる場所は、だいたい決まっています

人材派遣の会社設立が途中で止まるとき、原因はたいてい次の四つのどれかです。四つとも、会社設立の登記より前に決まってしまうものです。だからこそ、登記のあとに気づくと手戻りが大きくなります。
- 資産要件が足りない基準資産額2,000万円・現金預金1,500万円・負債比率7分の1。事業所1か所でこの三つを同時に満たす必要があります。
- 事業目的の文言が読み取れない定款と登記事項証明書から労働者派遣事業を行うことが読み取れないと、確認を求められます。
- 事業所が要件を満たさない事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上。実地確認があります。
- 派遣元責任者の講習が未受講許可の申請の受理の日前3年以内の受講に限られます。
この四つに共通しているのは、書類の書き方でどうにかなるものではないという点です。数字が足りない、文言が入っていない、面積が足りない、日付が古い。いずれも実体を変えなければ直りません。
逆に言えば、この四つを会社設立の前に確かめておけば、あとの手続きはおおむね順調に進みます。人材派遣の会社設立で「先に確かめる」ことが繰り返し言われるのは、このためです。

出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
一つ目|資産要件が足りない

いちばん多いのがこれです。人材派遣の会社設立で、事業所1か所であれば、基準資産額2,000万円以上・自己名義の現金預金1,500万円以上・基準資産額が負債総額の7分の1以上という三つを同時に満たす必要があります。
よくあるのが、現金・預金は1,500万円あるのに基準資産額が足りない、という形です。原因は負債にあります。基準資産額は資産の総額から負債の総額を控除した額なので、借入で用意した資金は相殺されてしまいます。
| 症状 | 原因として考えられること | 戻り方 |
|---|---|---|
| 現金はあるが基準資産額が足りない | 借入で資金を用意している | 資本金として入れ直す。増資の手続きと変更登記が要ります |
| 基準資産額はあるが現金が足りない | 不動産や車両が資産の中心になっている | 事業資金としての現金・預金を別に用意します |
| 負債比率を満たさない | 借入や未払金が大きい | 負債を減らすか、自己資本を増やします |
| 繰延資産の分だけ足りない | 創業費・開業費を繰延資産に計上している | 会計処理の見直しを税理士に相談します |
どの方法が適切かは、会社の状況によって変わります。会計処理の判断は税理士に、要件の判定は所管の都道府県労働局にご確認ください。
増資をする場合、株式会社であれば募集株式の発行という手続きを踏み、変更登記を行います。変更登記の登録免許税は増加した資本金の額の1000分の7で、3万円に満たないときは3万円です。手続きそのものに数週間かかることもあります。
そして、ここでもう一度確かめておきたいのが、小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置は新しく会社設立をする方には適用されないという点です。基準資産額1,000万円・現金預金800万円という軽減後の金額を前提に資金計画を立てていた場合、この段階で計画そのものを組み直すことになります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
二つ目|定款の事業目的が読み取れない

定款の事業目的に「人材派遣業」とだけ書いて会社設立をしてしまうと、労働者派遣事業の許可申請の段階で、労働者派遣事業を行うことが読み取れるかを確認されることがあります。
やっかいなのは、この書き方でも定款の認証は通り、登記もできてしまうことです。会社設立の手続き自体は何ごともなく終わるため、許可申請まで気づかないことがあります。
戻り方
事業目的を変えるには、株式会社であれば株主総会の特別決議が必要です。議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決します。そのうえで変更登記を申請します。
変更登記の登録免許税は、目的の変更で3万円です。一人で会社設立をした場合、株主総会そのものは形式的に済みますが、議事録の作成と登記申請という作業は残ります。司法書士に依頼すればその報酬も加わります。
- かかる費用
- 変更登記の登録免許税3万円。司法書士に依頼する場合はその報酬
- かかる時間
- 決議から登記完了まで1〜2週間程度
- そのあと
- 新しい登記事項証明書を取り直して、許可申請の書類を差し替えます
- 合わせて確かめる
- 人材紹介(有料職業紹介事業)もやる予定なら、このときに一緒に入れておきます
すでに別の事業をしていて人材派遣に参入する場合も、事業目的の追加という同じ作業になります。新しく会社設立をするか、既存の法人に事業目的を追加するかは、資産要件をどちらで満たせるかとあわせて考えることになります。
出典定款認証(日本公証人連合会) (日本公証人連合会/2026年8月27日確認)
三つ目|事業所が要件を満たさない

厚生労働省の業務取扱要領は、事業所について「事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること」と定めています。あわせて、風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないことも求められます。
この20平方メートルという数字には意味があります。派遣元責任者が仕事をする場所に加えて、派遣スタッフと面談やキャリアコンサルティングを行うための、個人的な秘密を保持できる場所が要るからです。単に床面積が20平方メートルあればよい、というものではありません。
止まりやすい形
- 契約書上の面積に共用部分が含まれていて、実際に使える面積が20平方メートルに足りない
- 床面積はあるが、面談のための独立した区画が取れない
- 他社と同じ部屋を共有していて、事業所としての独立性が認められない
- 自宅の一室を事業所にしたが、生活空間と分けられていない
- 周囲の状況が、事業の運営に好ましくないと判断される
戻り方
面積が足りない場合は、移転するか、隣の区画を借り足すことになります。どちらも賃貸借契約のやり直しで、敷金・礼金・仲介手数料が再びかかります。区画が取れない場合は、パーテーションなどで面談スペースを設けることで対応できることがあります。
いずれにせよ、事業所の使用権を証する書類(不動産の登記事項証明書または不動産賃貸借契約書の写し)を許可申請に添えることになります。転貸借の場合は、所有者の転貸借に係る同意書などの権利関係を証する書類も要ります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
四つ目|派遣元責任者の講習が間に合わない

派遣元責任者は、厚生労働省告示(平成27年厚生労働省告示第392号)に定められた講習機関が実施する派遣元責任者講習を、許可の申請の受理の日前3年以内に受講している必要があります。
ここで止まるのは、たいてい二つの理由です。ひとつは、申請してから受ければよいと思っていた場合。もうひとつは、受けようとしたら日程が埋まっていた場合です。
前者は順番の誤解です。厚生労働省の資料にも「申請に先立ち、派遣元責任者が派遣元責任者講習を受講しておく必要があります」と書かれています。後者は単純に、早めに申し込むしかありません。
そもそも派遣元責任者になれるか
講習の前に、その人が派遣元責任者になれるかを確かめる必要があります。要件はいくつもありますが、会社設立の段階でよく問題になるのは経験の要件です。
- 未成年者でないこと、欠格事由のいずれにも該当しないこと
- 成年に達した後、3年以上の雇用管理の経験を有する者であること(人事または労務の担当者、事業主や役員、支店長・工場長その他事業所の長など監督若しくは管理の地位にある者を含む)
- または、成年に達した後、職業安定行政・労働基準行政に3年以上の経験を有する者
- または、成年に達した後、民営職業紹介事業の従事者として3年以上の経験を有する者
- または、成年に達した後、労働者供給事業の従事者として3年以上の経験を有する者
- 住所及び居所が一定しない等、生活根拠が不安定な者でないこと
- 適正な雇用管理を行う上で支障がない健康状態であること
会社設立をする本人が要件を満たさない場合、要件を満たす人を採用するか、共同で会社設立をするかという選択になります。人材派遣を一人で始めようとする場合、ここが最初の壁になることがあります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
止まった分だけ、無収入期間が延びる

四つの止まり方を見てきました。どれも直せますが、直っているあいだも時間は進みます。そして人材派遣は、許可が下りるまで営業ができない事業です。

この図で見ていただきたいのは、登記のやり直しそのものより、時間の分の固定費が大きいという点です。事業目的の変更登記は3万円ですが、それで1か月遅れれば、家賃と役員報酬でその何倍もの金額が出ていきます。
だから、会社設立の前に四つを確かめる意味があります。確かめるのは無料で、直すのは有料だからです。
出典申請・届出等の手続(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
止まらないための、会社設立前のたな卸し

四つの止まり方は、順番を変えるだけでほとんど防げます。具体的には、会社設立の登記の前に次のことをやっておきます。

この流れで大事なのは、いちばん最後に登記が来ていることです。一般的な会社設立では登記が出発点になりますが、人材派遣では登記は途中の工程です。許可という二段目があるからです。
そして、この順番で進めても資産要件を満たせないと分かったなら、それは会社設立を先に延ばすという判断材料になります。要件を満たしてから申請する、というのがこのサイトの一貫した立場です。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|四つの場所と、その戻り方

人材派遣の会社設立が止まる四つの場所と、その戻り方をまとめます。
| 止まる場所 | 何が起きるか | 戻り方 | おおよその費用 |
|---|---|---|---|
| 資産要件 | 許可の要件を満たさない | 増資、負債の圧縮、会計処理の見直し | 変更登記の登録免許税3万円〜 |
| 事業目的の文言 | 労働者派遣事業を行うことが読み取れない | 株主総会の特別決議と変更登記 | 登録免許税3万円 |
| 事業所 | 面積・独立性・面談スペースが足りない | 移転、区画の追加、パーテーションの設置 | 物件により大きく変わります |
| 派遣元責任者 | 講習が未受講、または経験の要件を満たさない | 講習の受講、要件を満たす人の確保 | 受講料と、日程待ちの時間 |
費用は目安です。会社形態・資本金・事業所の状況によって変わります。実際の手続きは司法書士・社会保険労務士にご相談ください。
四つとも直せます。ただし、直すあいだも人材派遣の営業はできず、固定費は出ていきます。会社設立の前に確かめておくことが、結局いちばん安く済みます。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。許可の可否は所管の都道府県労働局へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、登記は司法書士へ、税額の判断は税理士へご確認ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典人材派遣・職業紹介を行う皆さまへ (厚生労働省/2026年8月27日確認)
止まったら、労働局に相談してください
この記事に書いた四つは、どれも直せます。ただし直すのに費用と時間がかかり、その間も家賃や役員報酬といった固定費は出ていきます。人材派遣は許可が下りるまで営業できないので、止まった分だけ無収入期間が延びます。
そして、どう直すのがよいかは会社ごとに違います。所管の都道府県労働局の需給調整事業担当部門は、申請前の相談を受け付けています。ひとりで抱えるより、状況を持って相談に行くほうが早く片づきます。
許可の可否は労働局が判断します。申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士、登記は司法書士、税額の判断は税理士の領域です。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行ではありません。
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