人材派遣の会社設立は、一人でもできるのか。許可の要件から確かめる
一人で始めようとしている方へ
人材派遣の会社設立を一人で進められないか、と考えている方に向けた記事です。
結論から言えば、会社設立そのものは一人でできます。ただし労働者派遣事業の許可には、一人では満たしにくい要件がいくつかあります。
この記事では、どこまで一人でできて、どこから人が必要になるのかを、要件の条文にあたって整理します。
会社設立そのものは、一人でできます

まず、会社設立そのものについて確かめておきます。株式会社も合同会社も、一人で設立できます。発起人が一人でも、取締役が一人でも、会社法上の問題はありません。
株式会社であれば、発起人一人が資本金を払い込み、その人が設立時取締役に就任するという形をとれます。合同会社であれば、社員が一人でも設立できます。
ですから、「人材派遣の会社設立は一人でできるか」という問いの前半は、できる、が答えです。問題は後半、労働者派遣事業の許可のほうにあります。
- 会社設立の登記
- 一人でできます。発起人一人、取締役一人でも問題ありません
- 資本金の払い込み
- 一人で用意できるかどうかは別の話です。事業所1か所で基準資産額2,000万円以上が必要になります
- 許可申請の手続き
- 一人でできます。書類をそろえて労働局に提出します
- 許可の要件
- ここに一人では満たしにくいものがあります。 この記事の中心です
会社設立の手続きと、許可の要件を分けて考えてください。手続きは一人でも進められます。要件は、人の要件が含まれるため、一人では満たせない部分が出てきます。
出典商業・法人登記の申請手続 (法務局/2026年8月27日確認)
一つ目の壁|派遣元責任者になれるか

労働者派遣事業の許可には、派遣元責任者を選任することが求められます。そして、派遣元責任者になれる人には要件があります。
厚生労働省の許可基準は、次のいずれにも該当することが必要としています。主なものを挙げます。
- 未成年者でなく、労働者派遣法第6条第1号から第8号までに掲げる欠格事由のいずれにも該当しないこと
- 住所及び居所が一定しない等、生活根拠が不安定な者でないこと
- 適正な雇用管理を行う上で支障がない健康状態であること
- 不当に他人の精神、身体及び自由を拘束するおそれのない者であること
- 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる行為を行うおそれのない者であること
- 派遣元責任者となり得る者の名義を借用して、許可を得ようとするものでないこと
- 厚生労働省告示に定められた講習機関が実施する派遣元責任者講習を、許可の申請の受理の日前3年以内に受講した者であること
そして経験の要件です。次のいずれかに該当する必要があります。
- 成年に達した後、3年以上の雇用管理の経験を有する者
- 成年に達した後、職業安定行政又は労働基準行政に3年以上の経験を有する者
- 成年に達した後、民営職業紹介事業の従事者として3年以上の経験を有する者
- 成年に達した後、労働者供給事業の従事者として3年以上の経験を有する者
一つ目の「雇用管理の経験」について、許可基準は次のように説明しています。人事又は労務の担当者(事業主、法人の場合はその役員、支店長、工場長その他事業所の長等、労働基準法第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」を含む)であったと評価できること、又は労働者派遣事業における派遣労働者若しくは登録者等の労務の担当者であったことをいう。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
二つ目の壁|職務代行者をどうするか

派遣元責任者の要件を自分が満たしていたとしても、もうひとつ壁があります。職務代行者です。
厚生労働省の許可基準は、派遣元責任者に関する判断として次のように定めています。派遣元責任者が不在の場合の臨時の職務代行者があらかじめ選任されていること。
つまり、派遣元責任者が一人だけでは足りません。その人が不在のときに代わりを務める人を、あらかじめ決めておく必要があります。

この点が、人材派遣の会社設立を一人で進めようとするときの、実質的な壁になります。会社の登記は一人でできても、許可を取る段階で最低もう一人が必要になるからです。
職務代行者に求められる要件については、所管の都道府県労働局にご確認ください。派遣元責任者と同じ経験が必要かどうかは、確かめておく価値があります。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
三つ目の壁|資産要件は一人でも同じ

三つ目が資産要件です。ここは一人だからといって緩くなりません。
事業所1か所であれば、基準資産額2,000万円以上、自己名義の現金・預金1,500万円以上、基準資産額が負債の総額の7分の1以上という三つを同時に満たす必要があります。
そして、この記事の前半でも触れた小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置は、これから会社設立をする方には適用されません。厚生労働省の業務取扱要領は、平成28年9月30日以降、この措置は改正法附則第6条第1項の規定により引き続き行うことができることとされた労働者派遣事業を行っている者からの申請に限る、としています。
つまり、一人で人材派遣の会社設立をする場合でも、用意する資金は変わりません。基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円という線を、一人で用意することになります。
さらに、借入では基準資産額は増えません。基準資産額は資産の総額から負債の総額を控除した額だからです。資本金として入れる必要があります。
一人で会社設立をする場合、この資金を自己資金で用意するか、家族などから出資を受けるかという選択になります。出資を受ければ、その人が株主になります。
そして資産要件は、許可を受けるときだけの話ではありません。許可の有効期間は初めての許可が3年、一度更新を受けた場合は5年で、更新のたびに同じ要件が確かめられます。一人で運営していて赤字が続けば、基準資産額は目減りしていきます。
会社設立の段階で資本金に余裕を持たせておくことには、この意味もあります。一人で始める場合は特に、事業が軌道に乗るまでの時間を長めに見ておいたほうが安全です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
事業所の要件も、一人だからといって変わりません

事業所の要件も、人数によって変わりません。厚生労働省の許可基準は、事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あることを求めています。
この20平方メートルには、派遣元責任者が仕事をする場所だけでなく、派遣スタッフと面談やキャリアコンサルティングを行うための、個人的な秘密を保持できる場所の分が含まれます。一人で仕事をするから狭くてよい、ということにはなりません。
加えて、その位置・設備等からみて労働者派遣事業を行うのに適切であること、風俗営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないことも求められます。そして許可の審査には、事業所の実地確認が含まれます。
- 実際に使える面積がおおむね20平方メートル以上あること
- 面談のための、秘密を保持できる場所があること
- 事業所としての独立性が保たれていること
- 個人情報を管理するための、施錠できる保管場所があること
- 事業所であることが分かる表示ができること
一人で人材派遣の会社設立をする場合、自宅の一室を事業所にできないかと考える方が多くいます。制度として一律に禁じられているわけではありませんが、上の項目をすべて満たす必要があります。生活空間と分けられているか、面談する場所を確保できるかといった点が問題になります。
一人で人材派遣の会社設立をする場合、事業所の家賃は固定費として重くのしかかります。許可が下りるまで営業できないため、その期間の家賃は売上のないまま出ていきます。おおむね20平方メートル以上という要件がある以上、家賃を極端に抑えることもできません。
会社設立の資金計画では、この家賃を営業開始まで5〜6か月分は見込んでおいてください。基準資産額を満たすための資金とは別に必要なお金です。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
一人で始めた場合に、続く負担

許可を取れたとして、その後の運営も見ておきます。人材派遣は、許可を取ってからのほうが管理する項目の多い事業です。
一人で始めた場合、次のような作業をすべて自分でこなすことになります。
| 作業 | 内容 | 頻度 |
|---|---|---|
| 派遣先の開拓 | 営業活動。契約の締結と更新 | 常時 |
| 派遣スタッフの採用 | 求人、面談、雇用契約、労働条件の明示 | 常時 |
| 教育訓練の実施 | 入職時の訓練と、最初の3年間は毎年概ね8時間以上 | 採用のたび、毎年 |
| キャリアコンサルティング | 相談窓口の担当者として | 随時 |
| 派遣元管理台帳の作成 | 派遣スタッフごとに作成・記録 | 常時 |
| 社会保険・労働保険 | 資格取得届、喪失届、算定基礎届 | 採用・退職のたび、毎年 |
| 給与計算と支払い | 派遣スタッフの給与 | 毎月 |
| 請求と回収 | 派遣先への請求、入金の確認 | 毎月 |
| 情報提供 | マージン率などの集計と公開 | 事業年度ごと |
| 事業報告書 | 事業所ごとの報告書の作成と提出 | 毎事業年度経過後 |
このほかに、決算・申告、許可の更新の準備があります。
この表を見ると、一人で回せる規模には限りがあることが分かります。派遣スタッフが増えれば、給与計算も社会保険の手続きも教育訓練も比例して増えるからです。
人材派遣の会社設立を一人で始める場合、どの規模まで一人で回すのか、どの時点で人を増やすのかを先に考えておいてください。人を増やせば人件費がかかりますが、増やさなければ事業が回らなくなります。
出典派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針ほか (厚生労働省/2026年8月27日確認)
一人で始めるための、現実的な組み立て方

ここまでの内容を踏まえて、一人に近い形で人材派遣の会社設立を進めるための組み立て方を考えます。

このチェックリストで、いちばん動かしにくいのが最初の項目です。派遣元責任者の経験の要件は、時間をかけないと満たせません。
ご自身が要件を満たさない場合、要件を満たす人を採用するか、共同で会社設立をするかという選択になります。あるいは、まず人事・労務の経験を積んでから会社設立をするという判断もあり得ます。
なお、業務委託や請負という形で仕事を受けるという選択肢を考える方もいます。これらは労働者派遣とは別の制度で、許可は不要です。ただし、発注者が労働者に直接指揮命令をしていれば、契約の名称にかかわらず労働者派遣に当たると判断されます。
派遣と請負の区分は、昭和61年労働省告示第37号(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)に沿って実態で判断されます。許可の要件を避けるために請負の形をとる、という考え方は成り立ちません。無許可で労働者派遣を行った場合には罰則があります。
出典都道府県労働局(需給調整事業担当)所在地一覧 (厚生労働省/2026年8月27日確認)
まとめ|一人でどこまでできるか

人材派遣の会社設立を一人で進められるかについて、まとめます。
- 会社設立の登記は一人でできる。 株式会社も合同会社も、一人で設立できます。
- 派遣元責任者の要件を満たすかが最初の壁。 成年に達した後3年以上の雇用管理の経験など。あとから作れません。
- 職務代行者があらかじめ必要。 派遣元責任者が不在のときの代わり。実質的にもう一人が要ります。
- 資産要件は一人でも同じ。 基準資産額2,000万円・自己名義の現金預金1,500万円(事業所1か所)。
- 小規模派遣元事業主への配慮措置は使えない。 新しく会社設立をする方は原則として対象外です。
- 事業所の要件も変わらない。 おおむね20平方メートル以上、面談できる場所つき。
- 運営の事務は一人分では収まらない。 派遣スタッフが増えれば比例して増えます。
結論として、人材派遣の会社設立を完全に一人で完結させることは難しく、少なくとも職務代行者としてもう一人が必要になります。会社設立を考えはじめた段階で、この点を確かめておいてください。
この記事の内容は2026年8月27日時点で、厚生労働省・法務局の公表資料により確認したものです。制度は改正されます。要件を満たすかどうかの判断は所管の都道府県労働局へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、登記は司法書士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、労働者派遣事業の許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
出典許可基準(労働者派遣事業を適正に実施するために) (厚生労働省/2026年8月27日確認)
一人で始めるなら、先に人の手当てを
人材派遣の会社設立で一人でつまずきやすいのは、お金ではなく人のほうです。派遣元責任者の要件、職務代行者の選任、キャリアコンサルティングの相談窓口の担当者。それぞれに要件があります。
資金は貯めれば用意できますが、経験の要件は貯められません。会社設立を考えはじめた段階で、この点を確かめておいてください。
要件を満たすかどうかの判断は所管の都道府県労働局へ、申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士へ、登記は司法書士へご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、許可申請の代行や個別の税務相談ではありません。
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